第149話 天使族の謎の祭

「はーい! これよりー、天使族に伝わるお祭りを始めまーす! という訳で、最初は皆の旦那様、アレックスから開会のあいさつをお願いしまーす!」


――ぶっ!


 ちょっと待ってくれ、ユーディット。

 開会のあいさつだなんて、そんな話は一切聞いてないんだけど。


「アレックス様、どうぞ」

「えっ!? マジか……」

「旦那様。いずれ国民たちの前で話す事も多くなります。演説の練習とお考え下さい」


 サクラとメイリンに促され、代表で来ている人形たちを含めた数十人の前で祭りの開催の挨拶をする。

 ……まぁあれだ。本当に何も考えて居なかったので、適当な事を言ってしまったのだが、誰も気にしていないようなので、俺も無かった事にしておこう。

 俺の挨拶が終わると、その直後に何かが風を切るような音が響き、星が瞬く夜空で何かが爆発した。


「何だっ!? 敵か……って、これは?」

「祭の為にソフィとレイの二人が協力して作ってくれた、花火って言うんだってー! 綺麗だねー!」

「お兄ちゃん、すごーい!」


 夜の空に、轟音と共に光の花が生まれ、消えていく。

 なるほど。確かに綺麗で、ユーディットやノーラだけでなく、皆が空を見上げて居た。

 ただ、ユーディットは宙に浮いていて、しかも下着を履いていないから、俺が見上げると……は、花火が綺麗だなー。

 それから程なくして明るい光が消え、星が瞬く夜空へ戻り、


「じゃあ、先ずは火を灯すよ。エリー、お願いー!」

「えぇ。≪ロー・フレイム≫」


 ユーディットの声に応じてエリーが会場に組まれた木に火を点ける。

 なるほど。この火の回りで歌うのか……って、何だ? 火は一つじゃないのか?

 てっきり、木を組んだ大きな焚火みたいなのを皆で囲むと思っていたのだが、六つの小さな焚火が円形に並んでいる。

 しかも、その焚火で周囲が明るくなって気付いたんだが……その焚火を頂点とした、魔法陣のような物が描かれているんだが。


「……ユーディット。これは、どういう祭なんだ?」

「えっとねー、詳しい内容は忘れちゃったんだけどー、五十年くらいの周期で定期的にやってたよー」

「五十年周期って……いやまぁ、それは良いか。とりあえず、怪しい祭ではないんだよな?」

「うん、大丈夫だよー! ……じゃあ続けるけど、聖水で描いた魔法陣の中には入っちゃダメだからねー!」


 やっぱり魔法陣なのかよ! しかも聖水という事は……いや、こっちは触れないでおこう。

 ユーディットの指示により、魔法陣を囲む様に皆が配置され、


「じゃあ、最初は皆で歌いまーす! 私に続いてねー」


 歌う事に。

 これも、皆が知っている歌を手拍子か何かで歌うと思っていたのだが……やはり、事前にちゃんと確認すべきだったな。

 内心、いろいろ反省しつつも、突発的な依頼でここまでやってくれたユーディットに感謝し、従う事にしたのだが、


――HILFE


 うん。最初からどういう意味なのかが分からない。

 とりあえず、それっぽく真似をして、ユーディットに続く。


――ICH BIN HIER

――HILFE

――ICH BIN HIER


 どうしよう。これは歌なのだあろうか。意味は分からないけど、同じ言葉ばかり繰り返しているんだが。

 すぐ傍に居るメイリンの様子を伺ってみると……案の定困惑していて、目が合ってしまった。

 だがその一方で、いつの間にか聖水で描かれた魔法陣が白く輝いている。

 その光は一層明るくなり、真上に――天高く昇って行った。


「はーい、おしまいだよー! 天使族のお祭りで決まっているのはここまでで、後は楽しく喋ったり、ご飯を食べたりしよー!」

「そ、そうか。じゃあ、早速リディアたちが用意してくれた料理を食べようか」

「やったー! ボク、何から食べようかなー!」


 焚火の近くへ料理が乗ったテーブルを移動させ、皆で立食パーティのように食事を楽しむ。

 ちなみに、人形たちも同じ料理を食べれば良いという話をしたのだが、人形たちは人形たちで用意したテーブルのものを食べるようだ。

 何でも子供の世話をしたり、用事があったりで、全ての人形が参加している訳ではないので、一部の人形だけが俺やメイリンと直接同じ食事を口にするのは、来れなかった人形たちに申し訳ないらしい。

 一先ず、用意してもらっていた料理が無くなって来たあたりで、


「ユーディット。あの光は何だったんだ?」

「え? 知らないよー。とりあえず、夜の方が成功した事が分かり易いからっていう理由で、祭りを夜にやっていた気はするけど……わかんないや」

「そ、そうか。まぁとりあえず楽しめたから良しとしようか。皆、片付けは明日で良いから、火だけ消して家に戻るぞー!」


 エリーやリディアに水魔法で焚火を消化してもらい、俺が光量を押さえた照明魔法を幾つか使って、周囲を照らす。

 いつものように、ノーラが正面から俺に抱きつき、ユーディットは背後から。それに加えて、両腕にフィーネとソフィが抱きついて来た状態で、家へと戻る。


「え……? ど、どういう事ですか? ぶっかけ祭は? この後、第二部があるのではないのですか!? ご主人様ぁぁぁっ!」


 何故かモニカが一人その場から動こうとせずに、立ち尽くして叫んでいるけど……一体どうしたのだろうか。

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