第510話 アレックスの料理
「この辺りにしようか」
イノシシの魔物を倒した後で暫く歩いたのだが、水辺も森も無く、周囲に何も無い草むらで野営を行う事にした。
「あの、アレックス様。もう少し頑張れば、確か洞窟か何かがあって、風くらいは防げる場所に行けると思うのですが」
「そうしたい所だが、余り野営の準備が遅くなってしまうと、いろいろと面倒な事になるんだよ」
「面倒な事? まぁ確かに夜の方が魔物が活発になりますが、それなら尚更洞窟の中などの方が良いのではないのでしょうか?」
「あー、その通りなのだが、ちょっと訳ありでね」
フェリーチェが不思議そうにしているが、早く逢瀬スキルを使わないと、リディアやエリーたちが不機嫌になるから……とは言えない。
それに、洞窟の中が野営に適して居るのは分かるが、この広い平地には平地の利点があるからな。
「≪石の壁≫」
「あ! なるほど。そういえば、アレックス様は土の魔法で壁を出す事が出来るのでしたね」
「そういう事だ。空を飛ぶ魔物には弱いが、そうでなければかなりの強固さを誇るからな」
フェリーチェに説明しながら、石の壁でそれなりに広いスペースを確保する。
ここで調理をするだろ。この辺りを風呂のスペースにして、この辺りが寝室かな?
ざっくりと考えながら石の壁で仕切りを作っていると、再びフェリーチェが戸惑いながら話し掛けてきた。
「あの、アレックス様。その石の壁を生み出す魔法ですが、魔力の消費は大丈夫なのでしょうか? 先程から、かなり使用されておりますが」
「ん? あぁ、パラディンは魔力量が元々多いのと、自然回復する速度も速いんだ。これくらい大丈夫だぞ」
「ぱ、パラディンって凄いんですね。神に仕える防御のエキスパート……というイメージだったのですが、いろんな事が出来るのですね」
パラディンのイメージはフェリーチェの言う通りなのだが、魔物を食べていろんなスキルを得ているからな。
「さて、夕食なんだが……食材が、先程のイノシシの肉しかないのだが、皆は大丈夫だろうか」
「私は、それをいただいた後であなたのを沢山飲ませてもらうから大丈夫よー」
「プルムもー! アレ、美味しいよねー!」
ラヴィニアとプルムがアレで腹を満たそうとしているのだが、流石に止めた方が……と言っても、代わりの物が肉しかないので、何とも言えない。
あと、ニースとユーリは身体が小さい事もあり、少しの肉で十分だとか。
明日は是非果物などを探したいところだ。
「私は一応、携帯食や調味料といった、一通りの物を用意していますが……お二人の言うアレとは何でしょうか? 皆さんと携帯食を分けるつもりですが、私もいただいて宜しいのでしょうか?」
「もちろん! あのね、すっごく濃厚で美味しいから、貴女もきっと気に入ると思うわ」
「わかりました。携帯食も、それほど量はありませんし、是非お願い致します」
いや、ちょっと待った!
ラヴィニアが飲もうとしている者は俺のアレだよな?
そんな物をフェリーチェに飲ませる訳には……って、フェリーチェが既にパンみたいな物を切り分け始めている。
これで、ラヴィニアやプルムが美味しいという物を、やっぱりフェリーチェにはあげられない……と言えるだろうか。
……そうだ!
「フェリーチェ。先程、調味料を用意しているという話だったが、借りても良いか?」
「はい、勿論構いませんが……どうされるのですか?」
「実は俺は料理スキルも持っているんだ。先程のイノシシの肉を、美味しく調理する為に是非貸して欲しくてさ」
「そういう事でしたら、喜んで!」
よし。先ずは浄化魔法で魔物の肉を浄化し、早速調理開始だ。
奴隷解放スキルでニナが来た直後くらいは、魔族領で初めて得た肉で料理を振舞ったが……料理スキルを得た今、前よりも手際が良くなっている気がする。
とにかく、この肉料理でフェリーチェの腹を満たし、ラヴィニアたちが言ったアレは、お腹がいっぱいなのでもう要らない……と言うように持って行くんだ!
あと問題は……この中で火のスキルが、俺のフレイムタンしかない事か。
ヴァレーリエからもらった炎の剣でイノシシ肉を斬れば、当然焦げるので、新たに生み出した石の壁を殴って割ると、程良い大きさの石をテーブルに見立て、
「≪フレイムタン≫」
石を熱して、その上で肉を焼く。
「あの……アレックス様。パラディンとは、そのような火で出来た剣を生み出せるのですか?」
「パパはすごいひとだからねー!」
「……凄いというレベルを超えている気がするのですが。いえ、これがアレックス様の普通なのですね」
ユーリの言葉に、フェリーチェが何かを悟ったような目をし始めたが、とりあえず料理は出来た。
あとは、これをフェリーチェにお腹いっぱい食べさせるんだっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます