挿話77 魔族領へ行く事にしたプリーストのステラ

「グレイスさん、ベラさん。お待たせしました。やはり、タバサさんからの呼び出しは、先日依頼された魔族領へ行くという話でした」

「……思った通り」

「やっぱり、そうなんだ。それで……ステラは行くの?」


 タバサさんと話をした後、すぐにグレイスさんとベラさんと合流し、話の内容を伝えた。

 グレイスさんはどう思っているか分かり難いけど、ベラさんは……不安そうな表情を浮かべている。

 三人パーティで、治癒魔法が使えるのは私しかいないので、当然と言えば当然だけど。


「うん。というのも、やっぱり妊娠しているみたいだから。妊娠初期は特にプリーストが居た方が良いと思うし、アレックスさんにとっても初めての子供だから、不安なんだと思う」

「どれくらいの期間、魔族領へ行くの?」

「それは数日だって。というのも、以前からお願いしていた賢者様が、一度アレックスさんたちをこっちへ召喚してくださるんですって。アレックスさんは、また魔族領へ戻るかもしれないけど、妊娠した人はこっちへ残るでしょうし、私もその時に戻って来ると思うから」

「あ、そういう事? 良かったー! ステラがずっと魔族領へ行ったっきりになっちゃうのかと思ったよ」

「流石に、魔族領で長期間過ごすのは難しいと思うんですよね。アレックスさんは強い人ですし、エリーちゃんたちは、そのアレックスさんの事を愛してらっしゃるので大丈夫かもしれませんが」


 住めば都と言うけど、食べ物もタバサさんが送る物しかないらしいし、家から出れば魔物がウヨウヨしている場所だもんね。

 そう考えると、アレックスさんたちは基本的に狭い小屋でずっと過ごしている訳で、娯楽なんかも無いのだろう。

 更に、エリーちゃんがアレックスさんの事が好きだから、狭い小屋の中で愛し合うと、他のメンバーもそれがどうしても目に入ってしまうし、他にやる事がないから、そこに混ざってしまったのかしら?

 ……あれ? 待って! という事は、私がそこへ行ったら、毎晩エリーちゃんやフィーネちゃんとアレックスさんが愛し合う声が聞こえてきちゃうって事なの!?

 で、でも妊娠しているし、普通はそういう事を控えるわよね?


「毎晩三人を相手にしているって話……三人共妊娠した?」

「……ふ、二人が妊娠したらしいよ」

「流石、S級冒険者。色んな意味で凄そう」


 グレイスさんは、どうしてそこで顔を輝かせるのかな?

 ダメだからね!? アレックスさんには、お説教もしに行くんだから、羨ましそうにしちゃダメっ!


「二人が妊娠って、どうするんだろ? S級冒険者だから奥さんが二人居ても養えそうだけど……重婚? それはこの国だとマズいから、そういうのが許容されている国へ移住するのかな?」

「どうなんでしょうね。でも、この近隣で一夫多妻制の国ってありましたっけ?」

「近くではないけど、無い事は無い。調べたから大丈夫。……いざとなったら、紹介する」


 どうしてグレイスさんは、そんな事を調べているのっ!?

 ……つ、連れて行かないからね!? エリーちゃんから怒られそうだし。


「そ、そうだ。えっと、私が数日間抜ける間の代わりの回復役を、タバサさんが推薦してくれるんだって」

「そうなの? てっきり治癒魔法を必要としないくらい低難度の依頼を請けるしかないかなーって思っていたんだけど、それは助かるかも」

「う、うん。そうよね。数日間、私が居なくても大丈夫だと思うの。だから、こっちで依頼を請けて待っていて欲しいなーって」


 そう言うと、ベラさんは安堵した様子なんだけど……グレイスさんがあからさまに肩を落とした!?

 やっぱり一緒に来る気だったの!?

 グレイスさんって、今まで恋人とか居ないって言っていたよね? 未経験とも言っていたよね!?

 それなのにどうして……って、もしかして未経験だからこそ、早くしてみたいって事!?

 いやいや、グレイスさんは未だ十七歳でしょ? そんなのこれから幾らでも出来るから、早まっちゃダメよっ!

 まぁ十九歳になっても、私は未経験だけど……じゃなくて、私は神に仕える聖職者だからであって、グレイスさんは普通に可愛いから大丈夫よっ!


「えーっと、そういう訳で少しだけパーティを抜けるけど、大丈夫でしょうか?」

「……仕方ない」

「そうだね。事情が事情だしね。けど、ちゃんと帰って来てね? あと、出来ればアレックスさんのアレが、どれくらい凄いのか教えてね」


 ベラさんは何を言っているのっ!?

 あと、グレイスさんは頷き過ぎっ! 混ざらないからっ! 私はエリーちゃんを悲しませたりしないからっ!

 とりあえず数日間街を離れる準備を進め、必要な荷物を買い揃えたり、私の代わりの回復役の方と顔合わせを済ませたら、魔族領へ……アレックスさんの許へ行く事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る