挿話76 魔族領に呼ばれたプリーストのステラ

「……という訳で、前に話したアレックスさんなんだけど、やっぱり妊娠させちゃったらしいのよ」

「え!? そうなんですね! 良かった。アレックスさんとエリーちゃんに子供が出来たんだ」


 タバサさんに大事な話があると呼び出され、アレックスさんの話なんだろうなと思いながらギルドへ来たら、案の定だった。

 だけど、私が思っていたのと違い、おめでたい話なので、素直に喜んでいるんだけど……何故かタバサさんの表情が険しい。

 やっぱり魔族領だからだろうか。

 以前に聞いていた話だと、あと数日で賢者様の召喚魔法を使い、この街へ戻って来るという話なので、それまで私が向こうへ行くのは構わないと思っているんだけどな。


「……あのね。アレックスさんが言うには、二人なんだって」

「双子なんですか? 初めての赤ちゃんが双子だと、ちょっと大変そうですね。エリーちゃんは自分の手で子供を育てたいって言うかもしれませんが、ベビーシッターさんにお願いするのも一つの手ですね」

「そうじゃないの。二人……妊娠させたんだって。アレックスさんが」

「………………はい? えっと、えーっと……えっ!?」

「モニカさんか、フィーネちゃんか、それともエミーシ国から来ているという宰相補佐の妹――スノーホワイトさんか……流石に一人はエリーちゃんだと思いたいんだけど、二人を妊娠させたとしか聞いていなくて、それが誰かは分からないのよ」


 あ、アレックスさん!? 一体、何をしているんですか!?

 幼いころからアレックスさんの事が大好きで、エリーちゃんが魔族領まで追いかけて行ったのに。

 三人を相手にしているという話は聞いていましたが、何かの間違いであって欲しかった。

 これは聖職者――プリーストとして、そしてエリーちゃんの友人として、アレックスさんにお説教ですね。


「あの、今話に出て来たスノーホワイトさんって?」

「あっ! え、えっと、その名前は一旦忘れてください」

「はぁ……構いませんが」


 スノーホワイトって変わった名前だし、エミーシ国って聞いた事のない国だけど、何なのかな?

 それに宰相補佐っていうのも、きっと偉い人だよね?


「……こほん。それで本題なんだけど、アレックスさんから、ステラさんに来て欲しいっていう要望があったのよ」

「なるほど。やっぱりアレックスさんも、お腹の中の子供が心配なんですね」

「えぇ。種馬……こほん。女の敵ではあるけれど、そういう気持ちがあったのは、良かったわ。でね、アレックスさんが戻ってくるのも、あと僅かな期間だし、ステラさんにお願い出来ないかなって」

「わかりました。数日とはいえ、お腹の中の子に何かあったら不安でしょうしね。ただ、パーティのメンバーに確認はさせて欲しいですが」


 数日間なら、グレイスさんとベラさんも待っていてくれるわよね?


「申し訳ないけど、お願いします。一応、一時的なステラさんの代わりとして、見習いヒーラーというか、まだ低位の治癒魔法しか使えないけど、ソロのアコライトに声を掛けているの。もしも、ベラさんたちが代わりの回復係を……っていう話をになったら、冒険者ギルドから、一時要員を推薦出来るって伝えて欲しいかな」


 アコライトは、プリーストの下位互換……っていう言い方は好きじゃないけど、そう呼ばれているジョブね。

 無理して難度の高いダンジョンとかに行かなければ大丈夫かな?


「あと大丈夫とは思うんだけど、念の為に伝えておくと、第四魔族領の上空でレッドドラゴンの目撃情報があったの。とはいえ、アレックスさんたちが居る場所から、かなり離れているし、隣の国から討伐隊が出るって話だから大丈夫だとは思うけど、一応警戒はしておいてね」

「レッドドラゴン!? あの災厄級の……ですか?」

「えぇ。万が一、遭遇する事があったら、流石に逃げて……としか言えないけど、それ以外の魔物なら、アレックスさんが守ってくれると思うから」


 確かにアレックスさんなら、私たちを絶対守ってくれるって信頼出来るけど、流石にドラゴンは……まぁ第四魔族領は凄く広いし、遭遇しないわよね?


「では、仲間と話して、準備が整ったら来ますね」

「ごめんなさいね。あと、アレックスさんに会ったら、よーく言っておいてね。去勢……じゃなくて、自重しろって」

「あ、あはは……」


 アレックスさん……タバサさんの目が笑ってないよ。

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