第233話 侵略者のアレックス
「あの、アレックス様。ウララドの街を攻めるのは、少し待っていただけないでしょうか。街の人たちを避難させてあげたいのです」
「いや、ちょっと待て! ジュリ、街を攻めるって何だ!?」
「え? シーナ国のウララドの街を攻める為に、南へ向かっているのではないのですか?」
マミのスキルで子供になってしまった後、それぞれを満足させ、元の姿へ戻った後にようやく皆が落ち着いた。
だが、落ち着いたと思ったら、突然ジュリにウララドの街――この先にある街の住人を逃がしたいと懇願される事に。
「そもそも、俺はウララドの街っていう所を攻めたりする気はないからな?」
「では、一体どうして魔族領からウララドの街へ?」
「いや、話せば長いんだが、俺は冒険者ギルドの依頼で、第四魔族領を開拓しに来たんだ」
一先ず、俺が魔族領へ来た経緯や、南を目指していた理由をジュリに説明する。
「なるほど。奴隷にされていた方々を帰してあげたいという目的があるのですね。しかし、アレックス様は……」
「ん? どうしたんだ?」
「いえ……非常に言い難いのですが、シーナ国ではエミーシ国から独立を支援されたアレックス様は、侵略者扱いされておりまして。この第四魔族領は、元々シーナ国の領土でしたので……」
あー、それで最初にジュリから侵略者だなんて呼ばれ方をしたのか。
おそらく、エミーシ国っていうのが、ネーヴやスノーウィの国の事だろう。
別の国が、自国の元領土で独立国を承認すれば、侵略と見られても仕方がないか。
冒険者ギルドから、報酬が土地だとは聞いていたが、国として独立するのはまた話が違う気もするしな。
「そういう訳で、ウララドの街では北……つまりここから来る者に対しては、非常に警戒が厳しいです」
「それが、ジュリの言っていた壁……か?」
「はい。魔族領の魔物を防ぐ意味もありますが、ここから南へ行くと、物凄く長い壁があります。出入口はなく、空を越えるしか行き来出来ない為、昼夜を問わず、空は常に見張られています」
「うーん。侵略しようだなんて少しも考えてないんだが……シーナ国や街の人には信じてもらえないんだろうな」
シーナ国から、誰かを家に帰してあげられないかという情報を得たいだけだという話をすると、
「それなら、私たちと一緒に行けば良いポン! 子供の姿になったアレックスなら、隠れられるポン!」
「そうですね! それは良い考えです! ウララドの街へご滞在中は、私の家に泊まっていただければ良いですし」
「元々、私たちはレッドドラゴンを追い払いに来たポン。ドラゴンを追い払ったけど、定期的に見回りが必要だと言えば、自然に行き来が出来るポン!」
マミとジュリから、子供の姿で壁を越えるという提案が出てきた。
俺の名前は知られているかもしれないが、姿までは知られていないだろうから、または入れば元の姿に戻れば良いし、悪くないかもしれない。
「……その、マミさんが壁を越える為の鳥みたいなのには、何人くらい乗れるのですか?」
「んー、大人なら三人が限界ポン。私は街では大人の姿で過ごしているから、あとはアレックス一人しか乗れないポン」
「くっ……あ、アレックスさん。あまり家を離れられると、私たちが困りますっ! それに何かあった時に、連絡が取れないと言うのも……」
ウララドの街という所へ情報収集に行こうと考えていたら、リディアから待ったがかかる。
確かに連絡が取れないのは困るので、人形を連れて行くべきなのだろう。
「ツバキの人形はどうだ? 見た目は八歳くらいだし、動けるしな。子供の姿の俺とツバキなら、大人一人分としてマミの鳥に乗れるのではないだろうか」
「八歳の頃のツバキ……まぁ大丈夫かと」
うん、サクラが言うなら問題無いだろう。
見た目だけで言うなら、ニナやミオの人形が良さそうなのだが、隠れたりするにはシノビであるツバキの方が向いていそうだからな。
「なら決まりポン! そうと決まれば、準備をするポン! 流石に今日は戻って来れないけど、出来るだけ早く戻るポン! アレックスも準備をしておいて欲しいポン!」
そう言って、マミが鳥みたいな何かを呼び出し、ジュリと共に南へ戻って行く。
リディアやヴァレーリエは、少し不満そうだが、家に帰れるようにする為だからと宥め……シーナ国へ潜入する事になった。
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