第29話 自爆スキルで動けなくなった俺と、三人の少女たち

「な、何だ!? この、攻撃は……私が、私が滅ぼされるというのか!?」


 パラディンのスキルの中で、自爆技とも呼ばれるグランド・クロスを使用し、強力な聖属性の攻撃をベルンハルトに与えた。

 だが、どうやら目論見通りベルンハルトを倒す事は出来たらしく、地に臥した魔族の身体がゆっくりと崩れていく様が見える。

 ただ、俺も全ての魔力を使い切ってしまったため、魔力枯渇状態となり、かつ体力も消耗してしまっているので、意識が朦朧としてきた。

 俺自身も既に立っているのが限界で、両膝が地に着いた所で、


「お兄さん! 凄ーい! お兄さんの身体から、強力な魔力みたいなのが放たれたよね……って、大丈夫!? どうしていきなりニナに抱きつくの!? に、ニナもお兄さんの事は好きだけど、ここだとちょっと……」


 ニナが俺の正面に走って来たため、もたれかかる形になってしまった。

 もう自分では腕すら動かせず、剣や盾も落としてしまった状態だというのに、これでは俺がニナを押し倒しているみたいじゃないか。

 エリー……早く、グランド・クロスを使った俺の状態を説明して、誤解を解いてくれ。


「ニナさん! 男性は激しい戦闘で興奮状態となり、戦闘直後はそれを静める必要があると聞いた事があります。ですが、その役目はニナさんには未だ早いと思いますので、私と交代いたしましょう」


 いや、リディアは何を言っているんだ!?

 違う、違うんだっ!

 俺は指一本動かせない程に消耗しているだけであって、変な意図は全くないんだ。

 というか、地面に倒れようとしていた所にニナが入り込んでしまって、俺の身体に押しつぶされそうになっているから、助けてやって欲しいのだが。


 以前は、皆が俺のスキルの事を知っているから、ステラがすぐに魔法で回復してくれたのだが、この中で治癒魔法を使えるのは俺しか居ない。

 その俺も魔力が空なので、回復するのを待たなければ何も出来ない……って、唯一事情を知っているエリーは何をしているんだ!?

 そんな事を考えていると、不意に聞こえてきた声で、俺の疑問がすぐに氷解した。


「ふっ……私は、この魔族領を任された四天王だ。ただでは死なんぞ。人間族の勇者よ。ここで、私と道連れになってもら……う」


 どうやら、ベルンハルトが最期の力を振り絞って、何かを仕掛けようとしているらしい。

 おそらくエリーは、それに気付いて、ベルンハルトを何とかしようとしているのだろう。

 頼むぞ、エリー。俺に代わって、ニナとリディアを守ってくれ。

 もう目を開ける事も出来ず、俺の顔が硬い地面……ではないみたいだが、何かに埋もれて動かせないので、心の中でエリーにお願いしていると、


「な、何をしているのよっ! その役目は私がするのっ! 今のアレックスは自爆技を使って動けないんだからっ!」

「自爆技? 動けない? なるほど。それでアレックスさんは、顔を平坦なニナさんの胸に……こほん、失礼。やはり、アレックスさんの介抱は私がします!」

「リディア。今、何気に酷い事を言わなかった? ニナだって、全く無い訳じゃないんだからねっ!?」


 三人ともベルンハルトの行動に、全く気付いて無いっ!

 何をしているか分からないが、俺よりもベルンハルトを何とかしてくれっ!

 しかし、ベルンハルトの事を伝えようとして口を動かすものの、何かに埋もれていて声が出ない。


「お、お兄さん。く、くすぐったいよー!」

「アレックスさん。私の方がきっと柔らかいですよ。どうぞ、こちらへ」

「ちょ、ちょっと二人ともズルいっ! 大きさから考えたら、この中では絶対に私が一番喜んでもらえるんだからっ!」


 ダメだ。身体を動かせず、声も出せない状態で、ベルンハルトの事を伝える術がない!

 そうこうしている内に、薄れゆく意識の中で、ベルンハルトの声が聞こえてきた。


「ふはははっ! 死ねぇっ! 勇者共よっ!」


 だが、暫く経っても何も起こらない。


「何故だ!? どうして私の力が発動しない!? ……くっ、貴様か! くそぉぉぉっ!」


 何が起こったのかは分からないが、ベルンハルトの最後の一撃が不発に終わったらしい。


『貴方は、魔王のしもべである四天王ベルンハルトを倒しました。よって、エクストラスキル……』


 そして、ようやくベルンハルトが力尽きたらしく、奴隷解放スキルを授かった時の声が聞こえて来た。


「アレックスは私が介抱するんだからっ!」

「ダメです! エルフの抱擁には体力回復の効果があるので、私がアレックスさんを介抱いたします!」

「リディアー。ニナはそんな話、今まで聞いた事がないよー?」


 ちょ、ちょっと待ってくれ。

 神様っぽい声が、三人の大きな声で聞こえないんだが。


「ほらほら、アレックスも大きい方が良いわよね?」

「大きければ良いという物ではありません。愛です。アレックスさんを癒すには愛が必要なんです」

「大きさが関係ないのなら、ニナでも良いよねー!」


 あの、三人ともマジで静かにしてくれないか?


『……この力で、更に成長してくれる事を願っています』


 ……あ、あれ? 何だか、神様っぽい人の説明が終わっちゃった感じなんだけど。肝心のスキルの説明が、全く聞こえなかったんだけど。

 とりあえず、新たにエクストラスキルを得たんだよな?

 そのスキルの効果は? 使い方は? 説明……もう一度説明をぉぉぉっ!

 だが結局、二度目の説明はなく、俺の気力も尽きてしまい、そのまま暫く倒れる事になってしまった。

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