第558話 ようやく判明する第一魔族領の場所
「……という訳なの。もう、お母さんにもアレックスさんの事は紹介しているわ」
「そ、そうなのか。数十年前に行方不明となった娘が帰ってきたと思ったら、連れ去った者と和解している上に、結婚までしているなんて。……こ、子供は!? 孫はまだなのか!?」
「お父さん。気が早く……もないか。アレックスさんが相手だから、遅かれ早かれ出来ると思うわ。種族が同じだったら、とっくに出来ていてもおかしくないくらいだもの」
怒り狂っていたラヴィニアの父親だったが、ラヴィニアからしっかり話してくれたのと、少しして母親もやって来たので、何とか丸く収まったようだ。
「ふむ。そういう事であれば、人魚族に代々伝わる、確実に妊娠する秘薬を飲むか?」
「え? そんな薬があるの!? あ……でも、声を失うとか、そういう副作用があったりするんじゃないの?」
「まさか。大昔の薬だと、そういう欠陥もあったかもしれないが、今の我々の世代の秘薬は大丈夫だ。とはいえ、ここ数十年は使った者が居ないが」
「副作用が無いなら……ちょっと飲んでみたい気もするけど、そう遠くない内に妊娠しそうだから、大丈夫よ」
人魚族にはそんな薬があるのか。
レイにそういう薬があるという情報だけでも教えてあげると、研究対象が増えると喜びそうだな。
秘薬というくらいだから、門外不出だろうし、実物は持って帰られないだろうが。
「……ラヴィニアが要らないのなら、レヴィアたんが欲しい」
「私も欲しいなー。まぁ、昨日と今朝があんなに凄かったし、秘薬とかなくても大丈夫そうだけどねー」
「そうそう。ウチも、もう妊娠してたりするんじゃないかなー? なんて思ったりするもん」
ラヴィニアたちの会話を聞いて、レヴィアとトゥーリア、ルクレツィアがそんな事を言いながら、抱きついてくるんだが……どさくさに紛れて変な所を触らないように。
「しかし、我々全員で挑んで、傷一つ付けられなかった竜人族の少女を操るとは……風のギルベルトという名前だったか? 凄い魔族が居るのだな」
「そうですね。とりあえず、私は新たな人生を歩み出していますが、失われた時間はもう戻りません。そのお礼はしっかりさせていただかなければ」
「なるほど。アマンダがそう考えているのであれば、父さんたちも協力しよう。だが、せっかくこうして久々に家族が再会出来たんだ。復讐は一旦置いておいて、アレックス君と一緒に平和な暮らしをしていくというのはどうだ?」
「もちろん、アレックスさんと幸せな家庭は築きます。ですが、それはそれで、これはこれです。他にもいろいろあって、私は絶対にあの魔族が許せないんですっ!」
ラヴィニアが言っているのは、おそらく昨日の事だろう。
風のギルベルトのせいで、レヴィアに攻撃してしまっていたからな。
とりあえず、俺も玄武の事があるから、風のギルベルトは絶対に倒さなければならない。それも、出来るだけ早く。
という訳で、父親と並んでラヴィニアの傍に居る、母親に声を掛ける。
「そうだ。先程聞きそびれた、玄武の社の場所について教えて欲しいのですが」
「そうでしたね。玄武様の社があるのは、この北の大陸の最北端です」
「……それは、あの灯台がある場所の事ですよね? そこにはもう行って来たのですが……」
「灯台というと、以前に私たち人魚族が住んでいた場所の近くにある、あの灯台かしら? あれよりも更に北よ?」
「えっ!? 更に北? そんな場所があるようには思えなかったんだが」
北の大陸の……というくらいだから、あの崖の上の話だと思うのだが、海獺族の住む島ティーウィーのように、あの灯台から北へ向かった先に、島があるという事か?
「待った! アレックス君は、割と最近に、その灯台を見に行ったのだろう?」
「えぇ。昨日の話ですね」
「うちの妻がすまないね。肝心な事を忘れているようだ。今は、北の大陸の最北端はその灯台かもしれないが、我々があの辺りに棲んでいた時は、まだ大陸が北に続いていたのだよ」
「北に続いていた? 灯台から南西に向かって湾のようになっていたが……」
「あぁ。そこが正に玄武様の聖域ともいう場所で、社があった場所だ。今は、その風の魔族が大陸よりも更に上空へ持ち上げ、第一魔族領として支配しているんだ」
「えぇっ!? 第一魔族領って、まさか……空に浮かんでいるんですか!?」
「うむ。その通りだ」
空にあるなんて、どうりで第一魔族領の話を聞かないはずだ。
しかし風のギルベルトは、島を空へ浮かせる程の魔力を持っているのか。
やはり、かなり強力な相手のようだ。
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