第559話 人魚族の村

 第一魔族領が宙に浮いており、そこに玄武が居る可能性が高いという情報を得る事が出来た。

 しかし、空か。

 流石に空を飛ぶなんて事は出来ない。

 唯一空が飛べると言えば天使族たちだが、ユーディットは妊婦だし、ユーリが俺を空の上へ運んで行くというのは到底無理だ。

 まずは第一魔族領を実際に見て、位置や高さを確認したら、そこへ行く方法を検討だな。

 そんな事を考えながら、早速灯台があった場所へ戻ろうと思って居ると、ラヴィニアの父親に止められてしまった。


「アレックス君。もう陽が落ちる。今日はアマンダと共に、うちへ泊まっていきなさい」

「いや、しかし……」

「頼むよ。娘と数十年ぶりに再会したんだ。玄武様のところへ急ごうと言うのも分かる。だが一晩くらい娘と、その夫――義理の息子である君と話をさせて欲しいんだ」


 数十年ぶりに再会と言われると、流石に家族水入らずで過ごしてもらうべきか。

 そう思って、ラヴィニアは人魚族たちの所へ泊まり、俺たちは天后のスキルでアマゾネスの村へ……と思ったのだが、ラヴィニアの父親は俺とも話をしたいらしい。


「アレックス君には愛娘を預ける訳だからな。人となりを知っておきたいじゃないか」

「アレックスがここに泊まるなら、レヴィアたんも泊まる」

「もちろんウチらも泊めてもらうよー! アレックス様と一緒に居るもん!」


 レヴィアやルクレツィアたちも、人魚族の村へ泊ると言うが……父親曰く、奥はそれなりに広いので大丈夫らしい。


「じゃあ、ユーリとプルムはアマゾネスの村へ行くか?」

「えー! ユーリもパパといっしょー!」

「だが、水中を通っていかないと、人魚族の村へ行けないから、ユーリとプルムは難しいんだよな」


 ここから岩を掘って、ユーリたちが通れるようにしてしまったら、人魚族たちの村の安全が脅かされるし、どうすれば良いのだろうか。

 ラヴィニアの父親たちに船で過ごしてもらうとか、アマゾネスの村へ来てもらうというのは、少し違うと思う。

 あくまで、ラヴィニアたち親子の再会がメインであって、アマゾネスの村へ行く事になると、大変な事に巻き込んでしまいそうだからな。


「わかった。レヴィアたんに任せて」

「何か思いついたのか?」

「ん。アレックスは、船の上で分身して。そして、そのまま分身を待機」

「え? ……大丈夫だよな? ≪分身≫」


 レヴィアの提案通り、船の上で分身スキルを使うと、二十人近くに増えた俺を見て、人魚族たちがどよめく。


「凄いな。人間族はこんなスキルを持っているのか」

「この人数で、意思統一が計れて、完璧な連携で戦闘が出来たら脅威だな」

「……あら? 増えたアレックスさんの中には、全裸になっている方も……まぁ! す、凄い……」


 ラヴィニアの母親だけどよめき方が違ったが、それには触れないでおこうか。


「レヴィア。この後はどうするんだ?」

「あとは、ユーリ経由で天后に依頼して転移してもらう。レヴィアたんも、ルクレツィアたちも、アマゾネスの村で楽しんでおく。アレックスは転移後に分身へ本気を出させて」

「なるほど。じゃあ、ウチとトゥーリアも、船に乗るねー!」


 船が沈むのではないか? と思えるくらいに、俺の分身たちでひしめき合う船に、ラヴィニアを除いた女性陣が全員乗り……船が消えた。

 レヴィアの言った通り、ユーリから他の人形経由で天后に転移スキルを使ってもらったのだろう。


「……本当に不思議なスキルだな。今のは、あの竜人族のスキルなのか?」

「いや、また別の場所に居る者のスキルだ。おそらく、朝にこの場所へ戻って来るだろうから、合流して出発する事になるかと」

「そうか。ひとまず、アレックス君とアマンダは、我々の家に行こう。積もる話もあるしな」


 そう言って、ラヴィニアの父親が水に潜り、他の人魚族たちも続いていく。

 最後にラヴィニアと母親に補助してもらい、俺も水中の通路へ。

 通路を通って水から出ると、洞窟の奥へと案内される。

 その中に、物凄く広い空間があり、ここが人魚族の村の集会場らしく、人魚族全員でラヴィニアと俺の事を祝ってくれるそうだ。


「ふふっ、あなた。結婚披露宴といったところかしら」

「あー、なるほど。言われてみればそうだな」


 海獺族を除けば、こうして両親に結婚報告をしたのはユーディット以来だが、天使族の時も宴が開かれたよな。

 今回はその人魚族版という訳だと思ったのだが……そんなタイミングで、身体に変な感覚が。

 ……って、これはレヴィアか!?

 俺はまだ分身の自動行動に何も指示を行っていないのだが……大勢の人魚族が集まっている状況だというのに、アマゾネスの村の女性陣が、俺の分身相手に暴走し始めてしまった!

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