第532話 ララムバ村の村長

「失礼。俺はアレックスという者で……」

「はい! マーガレットをもらってくださるんですね? 是非一緒に私も……こほん。すみません。何でもありません」


 マーガレットの母親に挨拶をしたのだが、呼吸が荒いのは大丈夫なのだろうか。

 少し心配になったのだが、ミオに問題ないと言われ、それより先を急ぐようにと……まぁ時間が無いのも本当なので、マーガレットに村へ連れて行ってもらう事に。


「アレックス様。こちらです。ララムバという村で、主に米や野菜を作っております」

「ありがとう。出来れば、村長や長老といった者を紹介してもらいたいのだが、わかるだろうか」

「大丈夫です。お任せください」


 マーガレットが俺に抱きつきながら歩き、その反対側でプルムも同じ事をしてくる。

 一方、そんな俺たちの後ろをミオがついてくるのだが、どうやらある程度進む度に、結界を張り直してくれているようだ。

 おかげで、物凄く視線を感じるのだが、襲われる事がない。

 なるほど。これから、街や村に入る場合は、ミオを連れて行けば良いのか。

 ……まぁたまに、先程のように結界を張ってくれない事もあるので、注意は必要だが。


「アレックス様、こちらです。この家に村長が居ります」

「そうか、ありがとう」

「どうぞ、上がってください」


 そう言って、マーガレットが扉を開け、ずかずかと中へ入っていく。

 これはマーガレットが村長と知り合いだとか、身内とかだと思って良いよな?

 いくら小さな村だからって、勝手に他人の家に入っている訳ではないよな!?

 若干の不安を抱きつつも、迷う事なくマーガレットが家の中を歩いて行き、奥の扉をノックも無しに開ける。


「ん……おや、マーガレットか。どうしたんだ?」

「お爺ちゃん。こちらは、アレックスさん。私、この方と結婚する事にしたの」

「そうか……マーガレットもそんな歳になったのか。だが、男を見た目だけで判断したりはしておらぬか? 男と女には相性というものがあってだね……」

「大丈夫! もう確かめあったから! アレックス様のは凄いの! 初めてだったけど、確信したの! これ以上のものなんて、存在しないから!」


 いや、マーガレットの言っている事と、こちらのご老人――おそらく、祖父であり、この村の村長なのだろうが――が言っている事が噛み合って居ないように思えるのだが。

 村長の言っている事は、性格などの話だろ?

 マーガレットにどうやって伝えようかと思っていると、先に村長さんが口を開く。


「そうか。マーガレットが満足しているのなら、良いだろう。かくいうワシも、婆さんとケンカする度に、夜に仲直りしていからの」

「お爺ちゃん。それ、わかるー! どんなに凄いケンカになっても、アレックス様に突いていただいたら、許しちゃうもの」


 いや、村長もそっちの話だったのかよ!

 一先ずマーガレットに村長を紹介してもらい、先ずは責任を取る事について話をすると、村長さんが突然真剣な表情に変わる。


「この子は、幼い頃に父親が魔物に殺されておってな。誰か守ってくれる者に嫁いで欲しいと思っておったのじゃ。アレックスさんはパラディンだという話しだし、どうか孫娘を守ってやってくだされ」

「承知しました。マーガレットさんは、責任を持って幸せにします」

「どうか、お願いしたい。ちなみに私の娘……つまり、マーガレットの母親も、まだ三十を過ぎたところだ。顔には出さぬが、夫を失って長らく寂しく思っているはず。出来れば、母娘揃って……いや、何でもないのじゃ。忘れてくれ」


 途中までは大変な思いをしてきたのだなと、しっかり受け止めていたのだが、後の話はどう受け止めれば良いのやら。


「……こほん。ところで話は変わるのだが、この村の西の森に、開けた場所があるだろう。あそこに温泉というか、露天風呂のような物を作りたいと考えているのだが、構わないだろうか」

「西の森? それはもちろん構いませんが……あんな所へ風呂を作ってどうされるのですか?」

「ある風呂好きの者の依頼で、大勢の人に来て欲しいというだけなんだ。特に儲けようと思っている訳ではないのだが……道を整備すれば、人は来てくれそうだろうか」

「この村には、風呂がある家などなく、河の水を汲み上げて身体を洗っているだけです。あれば皆喜ぶとは思いますが、大勢というのがどれくらいを想定するかですな。というのも、この村の東側には、ゴブリンの集落がありまして……」


 ん? ゴブリンの集落?

 まさかとは思うが、俺が投石で潰したあの村の事だろうか。


「それって、もしかして河のすぐ近くにある、昔は人が住んで居たという場所の事か?」

「はい。その通りですが、御存知なのですか? あのゴブリンの集落のせいで、東にある街とも交通が遮断され、自給自足の生活しか出来ていないのです」

「あー、その村なら破壊しておいたから大丈夫だ」

「えっ!? ゴブリンの数は十や二十ではないはずなのですが……」

「いやまぁいろいろあってな。大丈夫とは思うが、念の為に再確認しておくよ」


 一先ず、温泉を作る事は大丈夫だという話なのと、玄武が居る北へ行く途中で、少しだけ潰したゴブリンの村の様子を見る事にした。

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