第533話 急ぎたいアレックス

 村長さんにマーガレットの事で挨拶を済ませ、温泉についても承諾が得られたので、一旦ニースに説明して、先に玄武を助けに行こうと思う。

 思うのだが、何故かぞろぞろと村から女性たちがついてきている。


「ミオ。あの女性たちは何とか出来ないのか?」

「はっはっは。流石に人数が多過ぎるのじゃ。まぁこの結界が突破されるような事はないから安心するのじゃ」


 ミオが自信たっぷりに笑っているので、まぁ大丈夫かと思いながら村を出ると、西にある畑の手前で再びマーガレットの母親に遭遇する。


「アレックスさん! お待ちになってください」

「はい。何でしょう」

「見てください。この立派なニンジンを。せっかくなので、お持ちになってください」

「あ、ありがとうございます」


 親切心で村の特産品? をくれるようなので、ありがたくいただこうとすると、ミオが慌てだした。


「くっ! こやつら、小癪な事をするのじゃ!」

「え? どうしたんだ?」

「見るのじゃ! アレックスが足止めされた途端に、囲まれたのじゃ!」


 周囲に目を向けると、女性が円陣を組むようにして、俺たちを囲っている。

 こ、これでは前に進めないっ!

 それに、マーガレットの母親からニンジンを受け取る為にミオが結界を解除した瞬間、雪崩れ込まれてしまう!?


「あの、そちらの狐耳の女の子が言う足止めって?」

「い、いえ。何でもないんです」


 キョトンとした様子の母親が、作物を手に近寄って来る。

 魔族領で作物を作っている俺としては、これを無下にする事など出来ない!

 それにマズい事がある。


「ミオ、結界を解いてくれ」

「……うむ。それが一番早いのじゃ。最善の解決策なのじゃ」

「そして、結界を解いたら、すぐに畑を結界で覆ってくれないか?」

「む? どういう事なのじゃ?」

「これだけの人数だ。すぐ近くにある畑を……作物をダメにする訳にはいかないからな」


 ミオが小さく頷くと結界が解け、代わりに奥の畑が結界で守られる。


「ありがとうございます。ありがたくいただきますね」

「いえいえ。マーガレットの事をよろしく頼みま……あ! どうして!? 手が触れただけなのに……」

「触れられるの!? あ! 見えない壁が無くなってる!」


 手が触れた瞬間、母親が顔を赤らめ、周囲の女性の一人が近付いて来た。

 かと思うと、それを皮切りに女性たちが流れ込んで来る!


「≪分身≫!」


 早く玄武の所へ行かなければならないので、許して欲しい。

 そんな事を考えながら、再びマーガレットと母親、ミオに結衣……って、さり気なくマーガレットの母親が参戦しているのだが、未亡人なのでセーフ。セーフのはずだっ!


「そ、そんな! 私の畑で採れたニンジンよりも大きいなんて! これは、まさか……ダイコン!?」


 いや、母親は何と比べているんだよっ!


「お母さん。アレックス様は私の旦那様……んうっ! いきなり後ろから!? アレックス様が二人……ううん。何人居ても良いのっ! 凄いぃぃぃっ!」

「マーガレット!? そんなに大きいのを……ひぐぅっ! ひ、久しぶりの……でも、サイズが、サイズが違いすぎるのおっ!」


 マーガレットと母親が、手を繋ぎながら気絶した。

 その……悪く思わないでくれ。

 さて、他の者も……って、プルムが来た。


「お兄さーん! プルムも、プルムもーっ!」

「待ってくれ。今は時間が無くて……」

「やだー! プルムもお兄さんの欲しいもん!」


 どうしてこうなってしまうのか。

 ミオの結界は、途中までは凄く良かったのだが、大勢で囲まれてしまった時の対処を考えないといけないな。


「ご主人様……今日は沢山出来て、結衣は嬉しいです」

「いや、そういうつもりは無かったんだが、諸事情でな」


 一先ず、全員を満足させたので、気絶した女性陣を一箇所へ運び、ミオの結界で守ってもらう。

 それからニースたちの所へ向かうと、


「うーん。やはり入り口は広くしておきたいから、ここはこんな感じで」

「こう? だけど、水を通す事を考えると、ここは……」

「なるほど。では、逆にそれを利用して、打たせ……あ、アレックス様。周囲はどうでしたか? 街や村はありましたか?」


 ヴィクトリアとニースが、真剣に風呂のデザインで議論していて……うん。すまない。

 心の中で謝っておく事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る