第534話 温泉施設建設計画

「ニース。ひとまず、ここでの温泉作りについて、このすぐ東側にある村から許可は得ておいた」

「わーい! パパ、ありがとー!」

「だが、賑やかになるかどうかは別問題だからな。その村から、ここへ人を上手く集める必要がある」


 喜ぶニースを前に、この周辺の話をすると、ヴィクトリアが手を挙げる。


「アレックス様! でしたら、ここは私が! ある程度、お風呂の造りについては話が済んだので、次は村への道や、お風呂以外の施設について検討させてください」

「ん? お風呂以外の施設とは?」

「はい。食事処や宿泊施設があれば、遠方からでも人を集める事が出来るのではないかと」

「なるほど。だが、ラーヴァ・ゴーレムの依頼は賑やかにする事であって、金儲けではないからな? そこは気をつけるように。あ、別に無料にしろと言っている訳では無いぞ?」

「大丈夫です。こう見えて、私はアマゾネスの村で遊撃部隊を纏めておりました。部隊のコスト計算と、活動から得られる効果――コストパフォーマンスについては、嫌という程身に染みておりますので」


 そう言って、ヴィクトリアが苦笑いを浮かべる辺り、色々あったんだろうな。

 とりあえず施設を作るのは良いが、暴利を求めず、とはいえきちんと原価と人件費を回収しつつ、従業員側も含めて大勢の人が気軽に来られるような価格設定の施設だと良いと思う。

 とはいえ、この辺りの相場がわからないので、調査するか詳しい人に教えて貰わなければならないが。


「ところで、アレックス様。一つ気になっている事があるのですが」

「ん? どうしたんだ?」

「何故、プルムさんが幼くなっていて、アレックス様のお姿をしたプルムさんが増えているのでしょうか? 二人も!」

「え!? 二回も分裂しているのか!?」


 ヴィクトリアの視線の先に目をやると、プルム・テンとイレブンが居る。

 ……増えたなぁと、しみじみ思っていると、


「あの、お話が聞こえてしまったのですが、こちらに何か施設を作られるのですか?」


 マーガレットと母親が近くに来ていた。

 そうか。ミオに張ってもらった結界は、外からは入れないが、中からは出られるんだったな。


「あぁ。村長に話したから、マーガレットは既に聞いていたかもしれないが、ここに大きな風呂を作ろうと思っているんだ。それに併せて、何かしらの施設を作りたいと……」

「でしたら、私たちにも協力させていただけないでしょうか。アレックス様のお力になれるのであれば、これ以上の悦びはございません」

「アレックス様。この母娘と言い、増えたプルムさんと言い、私たちが頑張っている間に……」


 手伝いたいと言ってくれている母親のおかげで、ヴィクトリアのジト目が割と早くおさまった。

 ……最近はモニカの影響を受けていたからか、ヴィクトリアが奇行に走っていたが、元来は真面目な性分みたいだな。

 このまま、元のヴィクトリアに戻ってくれると良いのだが。


「えっと、二人のジョブは何なのだろうか」

「私は薬師で、母は料理人です。お力添えできないでしょうか」

「うーん。薬師と料理人かぁ。施設が出来た後なら、物凄く手伝ってもらいたいわね。薬湯とか、料理とか。でも、今は建物や道を造ろうとしているのよね」


 マーガレットの言葉に、ヴィクトリアがどうしたものかと考えていると、


「そういう事なら、私の出番ね! 私は大工のジョブを授かっているわ」

「私は、木こりー!」

「ウチはねー、穴掘り師ー!」


 まさにヴィクトリアが求めるようなジョブを授かっている女性たちがやってきた。


「凄いな。人材の宝庫……ヴィクトリア。これなら、どんどん建築を進められるな」

「そうですね。私も、何だか燃えて来ました!」

「よし。ならば、俺たちは玄武を探しに行って来るから、ヴィクトリアはここで温泉施設建設を頼む」

「はい! 畏まり……って、えぇっ!? アレックス様、酷くないですかっ!? つまり置いていかれるという訳ですねっ!?」


 あ、置いていかれる……と言われたら、確かにそう思われても仕方が無い状況だな。


「いや、人命がかかっているから急いでいるだけで、必ず戻って来るって」

「……ほ、本当ですよね? 迎えに来てくれますよね!?」

「当たり前だ」

「わかりました。では、少し離れ離れになってしまうので、最後に分身を出してください。皆さん、楽しまれていたのに、私だけ参加していないのですから……良いですよね?」

「え?」

「良いですよね? アレックス様」


 ヴィクトリアは仕事に燃え、こういう行為から離れたのかと思っていたのだが……どうやらそういう訳ではないようで、もの凄い圧を掛けられてしまった。

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