第535話 アーレット
ヴィクトリアが物凄い圧で迫って来るが、時間が無いのは事実で、おそらくレヴィアとラヴィニアが既に待っているはずだ。
……正直なところ、かなり時間を使ってしまっているからな。
とはいえ、ヴィクトリアだけ除け者になってしまうというのは確かに申し訳ない。
「わかった。分身は出すが、ある程度したら消すからな?」
「わかりました……って、アレックス様は居てくださらないのですか?」
「いや、分身は俺と繋がっているから、大丈夫だ。あと、プルム・ファイブ、テン、イレブンを残していこう」
「確か、プルムさんの分裂は、アレックス様の分身が消えても、消えないのですよね?」
「あぁ。ただ、分身スキルは使えないがな」
「いえ、プルムさんの分裂が三体も……うへへ。……こほん。畏まりました! このヴィクトリア、ニースさんと一緒に、しっかり温泉施設を作成致します!」
ここへニースを残していくのはちょっと不安なのだが、本人がかなりやる気だからな。
「ニースは温泉施設の作成をしたい……のか?」
「うーん。本当はパパと一緒に居たいけど、温泉も造りたいし……でも、ヴィクトリアさん一人にしちゃうと、誰も連絡が取れなくなっちゃうよね? だからニースは、ここで温泉を作っておくね」
「そうか。すまないな」
ひとまず、ヴィクトリアとニース、プルムの分裂たちが、マーガレット母娘たちララムバ村の者と協力して、温泉施設を作る為に残る事となった。
「マーガレット。すまないが、夜にこの二人と俺の姿をしたこの三人を、村の何処かへ泊めてくれないだろうか」
「もちろんです! 是非、我が家に泊まっていただければと」
「えー、マーガレットちゃんだけ、ずるいー! 私の家にも泊まって欲しいー!」
村の女性たちがプルムの分裂体の取り合いを始めそうになったので、
「≪分身≫」
時間も無い事だし、後で決めてもらう事にした。
「……あれ? また俺の分裂が増えているだが。見た感じ、十六歳くらいか」
「そのようじゃの。だが、我の魔力を感じぬのじゃ。一体誰の……って、あの者じゃ! あの母娘の娘の魔力を感じるのじゃっ!」
どうやら、いつの間にかアレクシーかアレニカのどちらかが分裂していたようで、マーガレットの愛……を注がれていたようだ。
案の定、十六歳の姿の分裂体は、マーガレットのところにしか行かないので、アーレットと名付ける事に。
しかし、薬師のジョブの俺か。
……薬師と言われると、どうしてもレイのポーションの事を連想してしまうのだが、シーナ国は大丈夫だろうか。
暫く離れているし、材料となる俺のアレが無いから……いや、逢瀬スキルを毎晩使っているから、材料はあるな。
……今度、メイリンに依頼して、シーナ国の各街に住む者から街の状況を聞こうか。
サクラやカスミに頼めば、すぐに情報は集まりそうだしな。
「よし。レヴィアたちが待っているはずだ。俺たちは船へ戻ろう」
「アレックスよ。我らは我慢すればそれで良いのじゃが、大丈夫なのか? それは」
ミオが俺のある箇所を見ながら、ニヤニヤしていると、
「大丈夫です。結衣がご主人様のをちゃんと処理しますから」
「いいなー。あとで、プルムにも代わってねー」
「ならば、船に着いて落ち着いたら我の番なのじゃ」
俺の影から結衣が現れ、アレで服が汚れないようにしてくれる事に。
その、結衣の負担が大きいだろうし、今は形を自在に変えられるプルムの方が適任な気もするのだが……譲る気はないのか。
無理だけはしないでくれ。
それから、レヴィアたちとの約束の場所まで戻ると、予想通り船が待っていた。
「あー! アレックス、遅ーい!」
「あなた。随分時間がかかったようですけど、大丈夫ですか?」
「パパー! なんども、ニースちゃんにいったのに、なかなかきてくれなかったー!」
レヴィアとラヴィニアとユーリが待ちくたびれた……とでも言わんばかりに、立ち上がり、抱きついてくる。
遅くなった事を詫び、早速出発となり、まずは河が深くなるところまでラヴィニアが船を引いてくれる事に。
その一方で、レヴィアがジト目を向けて来る。
「……アレックス。今、分身を使ってる。なら、レヴィアたんにも!」
「ん? レヴィアちゃん、どーしたのー?」
「あ、いや。ユーリは気にしなくて良いからな」
竜人族だからか、俺が使っているスキルが分かるのか。
プルムとミオも次が自分の番だと主張するが、この後レヴィアは船を引くからと、先に結衣と交代し……とりあえず、ユーリは俺と抱き合っていよう。
ちょっと振動があるが、下を見ないようにな。
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