第536話 やり過ぎレヴィアたん
レヴィアが満足したところで、河の深さが十分な辺りまで来たので、船の牽引をラヴィニアと交代する。
一方で、先程まで俺の近くに居たレヴィアの代わりに、プルムとミオが二人で……こほん。いやー、ユーリが可愛いから、いつまでも抱きしめていたくなるな。
……だから、ずっと俺の胸に顔を埋めておいてくれ。
諸事情により、ユーリが下を向かないようにしていたのだが、ふと横を見て声をあげる。
「あ! パパー!」
「な、何だ!? どうしたんだ!? へ、変な物は見ていないよな?」
「へんなものー? よくわからないけど、みてー」
ユーリに言われて右に――南側に目を向けると、どういう訳か、崖が大きく崩れていた。
「……って、ここは俺が潰したゴブリンの村か」
「ん? アレックスよ。我らと離れていた間に、そんな楽しそうな事をしておったのか?」
「楽しくはないが、ゴブリンが遠距離攻撃をしてきて困る……という話を、対岸の村から聞いてな」
「なるほど。アレックスの事だから、向こう岸から石でも投げて破壊したのじゃな?」
ミオは俺が投石しているところを見ていたのだろうか。
そのまま過ぎて驚きなのだが……それよりも、崖が崩れて上まで登れそうだな。
このゴブリンにはユーリが矢を射られたという怒りもあるし、ララムバ村の村長が、この村のせいで大きな東の街と交流が無いと言っていたので、一応残党が居ないかだけ確認しておこうか。
「レヴィア。すまない。あの崩れた岸に寄せる事は出来るだろうか?」
分身を解除してレヴィアに呼び掛けると、ゆっくりと船が停まり、人の姿に戻ったレヴィアがやってくる。
「アレックス、どうしたの?」
「いや、この崖の上にゴブリンの村があったんだ。既に俺が破壊済みなのだが、確認だけしておこうかと思ってさ」
「……また地上へ上がるの? レヴィアたん、さっきかなり待った」
「う……いや、そうなんだけど、流石にゴブリンの村で変に時間が掛かるとは思えないんだが」
「アレックスの事だから、どうなるかわからない。だから、レヴィアたんに任せる」
そう言って、レヴィアが何やら集中し始めた。
「むっ!? これは……アレックス! ラヴィニア、プルム、ユーリ! 皆、急いで船の中の小屋へ入るのじゃ!」
レヴィアが何をしようとしているのかはわからないが、ミオがここまで焦るのは珍しいので、皆と共に小屋の中へ入り、念の為パラディンの防御スキルで全員を守ると、
「……えーいっ!」
レヴィアが巨大な水の柱を生み出した。
おそらくこれは、以前はぐれた時に目印として使ったあの水柱と同じなのだろう。
近くで見ると、こんなにも凄まじいのか。
レヴィアが水柱を出し終えると、
「≪隔離≫」
すぐさまミオが結界で船を囲む。
船ごと結界で囲む……って、一体何事なのだろうかと思っていたら、
「アレックス! 来るのじゃっ! 全員アレックスにしがみつくのじゃっ!」
いきなりミオが抱きついて来て、他の者たちもそれに倣う。
訳が分からずにいると……もの凄い轟音がして、地響きが鳴り響く。
「み、ミオ!? 何が起こっているんだ!?」
「レヴィア殿が、あの崖の上に向かって水魔法で攻撃したのじゃ。竜人族の強大な魔法攻撃に、崩れた地面が耐えられる訳がないのじゃ!」
どういう意味だ? ……とは、聞けなかった。
あっという間に、崖の上から大量の泥水と瓦礫などが流れてくる!
「うん。アレックスー! ゴブリンを駆逐した」
「いや、確かに全滅はさせただろうが、駆逐した……じゃないから。レヴィアも早く家の中へ入るんだ!」
「ん? ……あー、ちょっとやり過ぎた?」
「やり過ぎどころの話ではないが……早くっ!」
家の中へレヴィアが入ったところで扉を閉め……ミオの結界のおかげで家の中に水が入って来る事はないのだが、船が激しい揺れと共に流され、立っていられない。
あのまま扉を開けっ放しにしていたら、間違いなく誰かが船の外に投げ出されていたな。
大量の泥水に押し流され、レヴィアに引いてもらう事なく、あっという間に海へと戻って来た。
この大きな河から水を引いている村があるのだが、あの泥水と瓦礫は、大丈夫だったのだろうか。
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