第537話 レヴィアの力

「レヴィア。流石にあれはやりすぎじゃないか?」

「ん? ゴブリンは殲滅させたし、気にしない」

「いや、流石に気になるんだが」


 海に流れ出た瓦礫は大丈夫なのだろうか。

 流石に量が量なので、心配になる。


「レヴィア。瓦礫で海や河が汚れたりしないだろうか」

「あー、そういう事ならレヴィアたんに任せる。ただ、みんな海に落ちないで。……助けるの面倒」

「え!? レヴィア!? 一体何をする気なんだっ!?」

「≪メイルシュトローム≫」


 問答無用でレヴィアが何かの魔法? を使い、海へ飛び込む。

 海竜の姿になったレヴィアが、いつにも増して凄い速さで船をグイグイ引いて行くと、ラヴィニアが小さく悲鳴を上げる。


「ひぃっ! あ、あなた……あれ」

「うわ! これ、やったのはレヴィア……だよな?」

「おそらく。流石レヴィアさん……と言ったところかしら。これは、巻き込まれたら私でも助からないわね」


 ラヴィニアの視線の先に目をやると、先程まで俺たちが居た河口に、巨大な水の渦が出来ていた。

 海面から覗いていた大きな瓦礫が渦の中で回り、瓦礫同士がぶつかって削られ、どんどん小さくなっていく。


「……いろんな物を吸い込んで、細かく砕いていったな」

「そうね。きっとあの大量の泥水も、海底に沈んだのではないかしら」

「河口が綺麗になったのは良いが、もう少し安全になんとかしてもらいたかったな」


 おそらく、河口に居た魚や貝なども、瓦礫と一緒に海の藻屑となってしまったのだろう。

 物凄く強力で、一気に水の中の大きなゴミを小さなチリに変えたのだとは思うが……いささか強力過ぎて、あの辺り一帯の生物は大丈夫なのだろうか。


「ま、まぁ小さく分解されて、魚たちのエサになるのではないですかね?」

「そうなのか?」

「……たぶん」


 大きな渦を見つめながら暫く船が走ると、ある程度進んだ所で速度が落ち、レヴィアが船の上に戻って来た。


「ふー。全員無事だった?」

「あぁ、流石にあの状態の海には入りたくないから、ラヴィニアを含めて、皆しっかり船の上に居たよ」

「良かった。あれは一度発動させると、途中で止めるのが大変。逆向きの魔力をかけないといけないから」

「そ、そうか」


 あの魔法は水中でしか使えないだろうが、逆に言うと水中なら大抵の魔物を倒せるのではないだろうか。

 そんな事を考えながら、先程までに比べれば、やや速度が落ちた状態で陸地に沿って進んで行くと、今まで北東に向かって進んで居たのだが、進路が北西に変わった。

 そして、


「あなた。あそこ……かしら。岬があるわ」


 陽が沈み始めた頃に、大きく北へ延びた陸の先端に、灯台? のような物が見える。

 あそこが北の大陸の最北端――玄武の祠がある場所なのだろうか。

 一先ずレヴィアに岬の近くへ船を寄せてもらい、船を止められるように穴を掘る。


「……ニースが居ないから、時間がかかるな」

「お兄さん。プルムも手伝うよー?」

「ありがとう。だが、俺は穴掘りスキルを持っているから大丈夫だ。任せてくれ」


 とは言ったものの、やはり一人では時間が……このままでは、夜になってしまう。


「アレックスー! レヴィアたんが手伝おうかー?」

「……いや、レヴィアはここまで泳いでくれただろ? この中で一番疲れているのがレヴィアだろうし、ゆっくりしていてくれ」

「んー、わかったー」


 すまん。暇そうにしているレヴィアに、心の中で謝る。

 というのも、レヴィアに任せると、この辺り一帯が吹き飛んでしまいそうなんだよ。

 まぁ陸へ上がる為の道は、簡単に作れそうだけどさ。

 しかし、ラヴィニアは船の周りで魚を捕まえ、ミオとレヴィアはゴロゴロしていて、プルムはボーっとしている。


「パパー! がんばってー!」


 ユーリは俺の傍で、応援してくれているが……うん、全員暇そうだ。


「……仕方が無い。≪分身≫!」

「おっ! 流石はアレックスなのじゃ! さっきの続きをするのじゃな?」

「いや、違うから。分身たちも穴掘りスキルがあるはずだし、全員で穴を掘るんだ!」

「なんじゃ。せっかく……おほぉっ!」


 あれ? 自動行動で穴を掘るように指示したのだが、何故かミオとレヴィアが嬉しそうに……いや、どこを掘っているんだよっ!

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