挿話121 ムササビ耳族の機織り士キアラ

 昨日、村で皆に愛を注いでくれるプルム・スリーさんと同じ姿の人――アレックス様と、見回り中に出会い……三人で沢山愛してもらった。

 あの体験が余りにも凄すぎて、三人で村を出てアレックス様について行こうとしたのだけど、急ぎの用があるとかで、それが終わってから迎えにきてくれるらしい。

 早く用事を終わらせて戻って来てくれないかなーと思いながら、今日も見張りの任に就いていると、


「ねぇ、キアラ! ちょっと、アレを見て!」

「どうかしたの? ……って、えぇっ!? どういう事!?」

「ん? 二人共どうかしたの? うそ……でしょ!?」


 パーティメンバーの指さす先……アレックス様が破壊してくれた、対岸のゴブリンの村へ、新たな魔物が続々と集まっていた。


「あれは……コボルト?」

「おそらくね。ゴブリンの匂いが染みついた村なのに、その住んで居た主たちが居なくなったから、他の魔物が棲家にしようとでも思ったんでしょうね」

「そんな……じゃあ、あの村の残骸というか、瓦礫なんかも全部燃やしたりしないと、延々に魔物が棲み続けるって事!?」


 そんな。

 せっかくゴブリンたちが消えて、脅威が消え去ったというのに。

 アレックス様が私たちを迎えに来てくださった際に、対岸の村を跡形もなく破壊してもらうように、お願いしたい。

 だけど、お忙しいアレックス様に、そんな事をお願いしても良いものか。


「ん? あれ? 待って! あの船……アレックス様よね?」

「どれどれ……ホントだっ! 対岸の村の下に、船を着けたけど、何をする気なんだろ?」

「さぁ……あ! 女の子が何かしようとしているよ? 何をするんだろ?」


 アレックス様と行動を共に出来て羨ましいな。

 けど、あんなに幼い女の子が一緒に居られるのなら、私も連れて行ってくれれば良いの……に!?


「――っ!?」

「な、何なのっ!? 女の子から、物凄い量の水が……対岸の地面が抉れてるっ!」

「それだけじゃないよっ! あの大量の水で、ゴブリンたちの村が一気に河へ崩れ落ちて行く! ……って、アレックス様は大丈夫なの!?」


 見た目は幼い女の子なんだけど、どうやらかなり凄い魔法使いみたい。

 恐ろしい程の水の力で大地を削り、たった一撃でコボルトごと、対岸の村を消滅させてしまった。

 す、凄い。

 けど、流石はアレックス様ね。あの村に、他の魔物が集まる事を見越していたなんて。


「……って、村の残骸が全て河に流れ込んで行くわっ!」

「大変っ! 隣の水車の村は、下の河から水を汲み上げて居るんだよね? 河が物凄く濁っているし、このままだと水車が壊れちゃったりしないかな!?」

「え!? うちの村に流れて来る小川って、その水車の村から来ているのよね? とりあえず、水車を守るように伝えなきゃ!」


 ひとまず、一人がうちの村の村長さんへ知らせに行く事になり、残った私たち二人は水車の村へ知らせに行く事に。

 木から木へと飛び移り、大急ぎて水車の村の近くへ。

 もちろん、濁流とその濁流に流されるアレックス様たちの船は、私たちよりも早く川下へ。


「着いたっ! この村の村長は……」

「私、前におつかいに来たから知ってる! 水車村の村長さんには私が知らせるから、キアラちゃんはアレックス様たちが無事か、確認してきて!」

「わかったわ!」


 再び川下に向かって、木から木へと飛び移りながら移動していると、もの凄いスピードで河口から北へ向かって走る、アレックス様の船を見つけた。

 まるで何かから逃げるように船を走らせているけど、流れ出てきた瓦礫から逃げているのだろうか。

 確かに、あれだけの濁流に巻き込まれて、ここまで無事に来られたのが奇跡のよう……って、ちょっと待って。


「……何、これ!?」


 巨大な渦巻きが河口近くに現れ、河の瓦礫や濁流を綺麗に吸い込んでいく。

 このおかげで、河が凄く綺麗になっていくんだけど……流石にこんな現象が勝手に起こるとは思えない。

 ……これも、先程の女の子が使った魔法なのだろうか。

 だとしたら、アレックス様と一緒に行動させていただくのは、物凄くハードルが高いという事。

 暫くしたら渦も消え、河も元通りで……よし! 機織り士の私は、戦闘や魔法では絶対に勝てない。

 だったら……私のジョブ、機織りを極め、アレックス様に気に入っていただくのよっ!

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