第42話 三度目の奴隷解放と、だいしゅきホールド

『エクストラスキル≪奴隷解放≫のクールタイムが終了しました。再使用可能です』


 シェイリーも呼び、オークキングの肉を始めとした、大量の豚肉でお肉パーティを行った二日後、またもやあの声が聞こえて来た。


「……皆、ちょっと聞いてくれ。リディア以外は初めてだと思うが、俺のエクストラスキルが使用可能になったんだ」

「それって、ニナを助けてくれたスキルだよね?」

「あぁ、その通りだ。リディアとニナに続き、俺は新たな誰かを助けたいと思って居るのだが……このスキルを使って良いか?」


 奴隷解放スキルが再び使えるようになった事を告げると、リディアとニナは早く使ってあげようと言ってくれているのだが、エリーとモニカは少し困惑しているようだ。


「アレックス。そのスキルって、やっぱり女の子が来るの?」

「いや、それは分からないな。世界中で奴隷にされているのが、男女どちらが多いかも知らないし」

「そ、そう……またライバルが……」

「ん? 何か言ったか? 大事な話だし、もう一度言ってもらっても良いか?」

「だ、大丈夫。何でもないからっ」


 エリーは何か言いたい事があるんじゃないのか?

 ただ、本人が大丈夫と言っている以上、追求しても仕方がないが。


「モニカは何か聞きたい事とか、不安に思う事はあるか?」

「聞きたい事はありませんが、お願いしたい事があります。どうか私を、ご主人様の性奴れ……な、何でもないです」

「アレックスさん。乳女さんは、特に何も無いそうなので、どうぞスキルを使ってくださいませ」


 何か言いかけていたモニカが、リディアの顔を見た途端に言葉を噤んだけど、本当に何も無いのか?

 再度、念押しでエリーとモニカに確認したけれど、特に何もなく、使って構わないという回答だったので、


「≪奴隷解放≫」


 スキルを使用すると、小屋の中に大きなクッションの上で眠る、小柄な女の子が現れた。

 見た感じは十三歳から十四歳といった所だろうか。

 ニナよりも少し大きくて、リディアのように手足が細く、痩せている。

 だが茶色い髪の中から見える耳を見た限りでは、エルフではないようだ……って、頭の上に、大きな耳が付いている?


「……初めて見るが、獣人族のようだな」

「私も初めて見るわね」

「ニナは会った事があるよー。あのね、魔法は得意じゃないけど、その分、身体能力が高いんだってー」


 聞けば、ドワーフの村の近くに、獣人族の村があり、普通に交流があったそうだ。

 ちなみに、リディアも獣人族とは普通に会った事があり、モニカは俺やエリーと同じく初めてなので、マジマジと覗き込んでいる。


「ケモミミ……くっ、私にはどうしようもない属性が……」


 よく分からない事を呟いているモニカはさておき、


「……すぅ……」


 周囲を取り囲まれているけど、獣人族の少女は気持ち良さそうに眠っている。


「……寝てるな」

「寝てますね……起こしますか?」

「いや、眠っているのを起こすのも可哀想だろう。一先ずそのまま寝かせておいてやろう」


 とりあえず、獣人族の少女はそのままにして、俺たちは開拓と洞窟探索に分かれ、いつも通りの活動を続ける事に。

 とりあえず昼まで作業を行い、洞窟探索組共々、昼食の為に小屋へ戻ってくると、


「……寝てるな」


 獣人族の少女は、未だ眠っていた。


「そうね……流石に寝過ぎじゃないかしら?」

「だが、これまで何をしていたか分からないからな。夜中に何かしらの作業させられていたとしたら、昼に寝るのも仕方がないだろうし」

「なるほど。じゃあ、とりあえずご飯にする?」

「そうだな。悪いけど、頼むよ」


 リディアとエリーが食事を作ってくれている間、俺とモニカは、ニナに協力してもらって武器の手入れをする。

 鍛治スキルを持っているからか、ニナに手入れをしてもらうと、みるみる剣が綺麗になっていく。

 それから少しして、二人が料理を作り終えたので、


「いただきます」


 皆で美味しい昼食を食べる事に。

 ちなみに、椅子が四つしかなかったので、五つ目は木で作った椅子もどき……というか、木を輪切りにしただけの物だったりする。

 今日で六人になったので、そろそろ椅子作りにトライしてみようか。

 そんな事を考えていると、


「……ん? ごはん……?」


 獣人族の少女が目を擦りながら、身体を起こした。


「起きたか……おはよう。俺はアレックス。君は……」

「きゃぁぁぁっ!」

「えぇっ!? ちょっと、待ってくれ!」


 ボーッとしていた少女と目が合った途端、悲鳴を上げられ、逃げる様にして小屋から出て行った。


「待て! 話を……って、壁を乗り越えた!?」


 慌てて後を追うと、少女が石の壁を乗り越え、反対側へと飛び降り、その直後、


「いやぁぁぁっ!」


 再び悲鳴が響き渡る。


「リディア! 石の壁を……すまん。危ないから、塞いでおいてくれ!」


 小屋から出て来たリディアに、目の前の壁を消してもらい、堀を飛び越えると、


「≪ホーリー・クロス≫」


 少女に襲い掛かろうとしていたシャドウ・ウルフを大急ぎで倒す。

 その直後、余程怖かったのか、少女が抱き付いて……というか、両手両足を使って、しがみ付いてくる。

 あの壁を登る速さといい、このしがみ付きといい、そして身体と同じくらいに大きな、クッションだと思っていた尻尾から想像すると、この少女はリスの獣人族だろう。


「うぅ……ありがとう。食べられるかと思った」

「もう大丈夫だ。それと、俺のスキルで君は奴隷から解放されたんだ」

「……え? ど、どういう事!?」

「君はもう、奴隷じゃないって事さ。すぐに……とはいかないが、いつかかならず君を家に帰してあげよう」

「ホントっ!? あ、ありがとう!」


 相変わらず、俺にしがみ付いたままだけど、少女が俺の胸から顔を上げ、可愛らしい笑みを浮かべてくれた。


「俺はアレックスっていうんだが、君は?」

「ボクはノーラっていうの。お兄ちゃん、ありがとうっ!」

「ボク……って、男の子なのか?」

「ううん。女の子だよ? ボク……って、変? お兄ちゃんが嫌なら頑張って直すよ?」

「いや、全く変じゃない。ノーラは今のままで大丈夫だ」


 一先ず、新たにノーラという少女が仲間に加わる事になり、一旦皆に紹介しようと壁の中へと戻ったのだが、


「くっ……初対面なのに、だいしゅきホールドなんて! この子、出来るっ!」


 モニカがよく分からない事を言っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る