第753話 全力トロッコ

「ヴェロニク。では、このドワーフの道を使わせてもらうよ」

「はい。アレックス様のお役に立ててなによりです」


 ヴェロニクが案内してくれた大きなトロッコに乗り込む。

 鉱物を運ぶというだけあって、大通りよりも天井の高さがあるので、これなら本来の姿に戻っても大丈夫そうだな。

 元の姿に戻り、トロッコの前方にある取っ手を握る。


「これを……上下に動かせば良いんだな?」

「えぇ。ですがトロッコが大きいのと、ドワーフの腕力を基にして作られているのですが、大丈夫でしょうか」

「まぁひとまず動かしてみるよ」


 ニナを始めとして、ヴェロニクを除いた皆がトロッコに乗ったので、取っ手をゆっくりと持ち上げ、力いっぱい下げる。

 すると、トロッコがゆっくりと……ではなく、一気に加速した!


「ひゃぁっ! アレックス様!? あんまり……」


 何か言いかけていたヴェロニクの声が一気に聞こえなくなり、景色が凄い速さで後ろへ流れていく。


「お、お兄さん!? 速過ぎだよー!」

「あ、アレックス様。ちょっと怖いですーっ!」

「ふむ。これは楽なのじゃ」


 ニナとグレイスが怯え、ミオが悠然とトロッコに腰を下ろす。

 とりあえず、トロッコを動かすのに力が要りそうだったので、全力で取っ手を動かしたが、どうやら程々の力で良さそうだ。

 という訳で、ニナとグレイスが安心する速度に下がるまで取ってを触らず、暫くしてから適度の取っ手を動かして行くと、


「あっ! お兄さん! 今のところ……もうすぐ国境って書かれてたよ!」

「なるほど。じゃあ、そろそろ止まる準備を……って、ニナ。このトロッコって、どうやって止めるんだ?」

「えっ!? 何か止めるレバーとかは無いの!?」


 ニナが慌てて俺のところへやって来たが、何をどうすればトロッコが止まるのかが分からない。

 そうこうしている内に、小さな建物と門のような物が見えてきた。


「むっ!? そこのトロッコ! 止まれっ! 止まるのだっ!」


 鎧に身を包み、槍を手にしたドワーフの女性がレールの前に立ちはだかる!

 その後ろには鉄で出来た巨大な門があり、このままだと女性に直撃して、トロッコと門に挟まれてしまうっ!


「≪ディボーション≫」


 大急ぎで、レールの上に居る女性にパラディンの防御スキルを使用すると、トロッコから前に向かって跳ぶ!

 物凄い速さで地面に着地し、脚にかなりのダメージを負ったが、すぐに立ち上がると、女性の前へ。


「うぉぉぉぉっ!」


 トロッコが、高速で迫って来る大きな鉄の塊となっているが、乗っているニナたちも、このドワーフの女性も、どちらも守れるようにと勢いを殺しつつ、トロッコを止めようと試みる。

 だが、トロッコは止まったが、乗っていたニナたちは急停止に耐えられず、吹き飛んで……


「≪閉鎖≫」


 間一髪でミオが結界を張り、ニナたちが吹き飛ばされずに、結界で留まる。


「ミオ、ありがとう。助かったよ」

「まったく。アレックスよ。ちゃんと操作方法を聞いてから出発するのじゃ」

「そうだな。危うく大惨事になるところだった」


 無事にトロッコを止め、安堵していると、


「お、お前たちは何者だ!? 今日はドゥネーヴ国側からドワーフの道を使うという連絡は来ていないぞ!」


 何とか助けたドワーフの女性を始めとした、女性兵士たちに囲まれる。


「いや、ヴェロニク……その向こうの国の王女に利用許可は得ているんだ。連絡すると言っていたから、その内連絡が来ると思うのだが」

「その内……はおかしいな。ドワーフの国同士のルールで、ドワーフの道を使用する時は、出発前か出発直後に連絡する事になっている」


 俺に言われても困るのだが……と思っていると、別のドワーフの女性が奥から向かって来た。


「隊長! ドゥネーヴ国から連絡で、先程こちらへ一台のトロッコが向かったと連絡がありました」

「既に到着しているから、ルール違反だと伝えておいてくれ」

「いえ、それが相手はドゥネーヴ国の第二王女で、出発してすぐに連絡したとの事です。ただ、荷物を載せておらず、人だけの移動なので、もしかしたら早く着くかもしれない……とは言っておりました」

「いや、それにしては早過ぎだろ。幾らドワーフの道を使い、全力でトロッコを漕いだとしても、半日……は言い過ぎだが、かなりの距離があるぞ?」


 あー、力の加減を間違えたというか、ちょっと頑張り過ぎたからな。

 ひとまず怪我人も居なかったのと、ヴェロニクから連絡があって通してもらえる事になったのだが……とりあえずトロッコの止め方を教えてもらおうか。

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