第341話 瀕死のアレックス
ジスレーヌがニナと同じ成人ドワーフだと分かったので、ニナと情報交換をするか聞いてみた。
「俺の家に……あぁ、こことは別の家にニナというドワーフの少女が居るのだが、会って話してみたいとかって事はあるだろうか」
「えっと、人間の国と同じ様にドワーフもいろんな所へ住んで居るので、話が合うかどうかは分からないですが……ご主人様が会えと仰るなら会いますよ?」
「んー、いややはり止めておこう。今のは忘れてくれ」
ジスレーヌの言う通りで、俺も同じ人間だからと、見ず知らずの人を紹介された所で困るだけだからな。
フレイの街にドワーフが少ないだけで、実は世界中には大勢いるようだし、止めておこうか。
そんな事を考えていると、
「ご主人様! お待たせしましたー!」
別の少女たちがキッチンから鍋を運んで来た。……来たのだが、これは何だろうか。
シチュー? なのか?
鍋の中身が紫色で、黒い瘴気が立ち昇っている気がしなくもない。
まさか、食材以外のポーションの材料などをキッチンに置いていて、それを誤って入れてしまったのか!?
そう思ってレナに目を向けると、真っ青な表情のレナが、俺を見ながら首を横に振る。
今のはどういう意味だ? エリーなら視線だけで会話が出来るのだが……アレが何か分からないという意味だろうか。
しかし、こんなに幼い少女たちが作ってくれたんだ。
食べない訳にはいかないだろう。
「ご主人様。奥様、どうぞ」
「あ、あぁ。ありがとう」
「ご、ごめんポン。何だか突然お腹が痛くなって、食べられそうにないポン」
それぞれの器に、紫色の何かがよそわれ……マミが光の速さで断ったぁぁぁっ!
続いてジュリやケイトに、ツキとレナも断り、残ったのは俺とレヴィアのみ。
「いただきます。んー、まぁまぁ……かな」
「そうですか。これから、もっと頑張りますね」
「ん。頑張れ」
レヴィアは普通に食べているな。
なるほど。見た目は大変な事になっているが、食べられない事はないのか。
レヴィアにまぁまぁと言われ、少しへこんで居るようにも見えるので、ここは俺が旨いと言って励まして……くっ! 何がどうやったら、こんな匂いになるんだ!?
だ、だが、いくしかない。俺の為だと言って、作ってくれたんだ。
食べない訳にはいかないっ!
勇気を振り絞り、スプーンで紫色の何かをすくうと、口へ運び、思いっきり飲み込む!
「うん! ありがとう! 旨……いぞ……」
「アレックスさん!? アレックスさーんっ! レナちゃん! 何でも良いからポーションをっ!」
「こ、これをっ! お父さんっ! お父さんっ! しっかりしてーっ!」
慌てるジュリとレナの声が聞こえる中で、段々意識がなくなっていき……真っ暗な世界の中に、白く輝く女性が映る。
『アレックス。貴方は、まだこっちへ来てはいけません』
『あの、どちら様でしょうか? ……いや、この声は聞いた事がある。もしかして、エクストラスキルを授けてくださる女神様でしょうか?』
『ふふっ……それはナイショです。良いですか、アレックス。世界が大変な事になっています。出来るだけ早く船を手に入れ、北へ……玄武を助けてあげてください』
『それはどういう……玄武とは誰の事なのですか!?』
『頼みましたよ……』
そう言うと、真っ暗な世界が明るくなり、
「待ってくれ! 女神様っ!」
「アレックス様ーっ! 良かった、目が覚めたっ!」
「えーっと、アレックス。確かに私は女神みたいに可愛いかもしれないけど、女神様ではないポン。若干混乱しているみたいだけど、無事で良かったポン」
気付いた時には、ケイトやマミに顔を覗き込まれていた。
「あ、あれ? どうして俺は倒れて……?」
「えーっと、あの料理を一口食べた後、アレックスさんは倒れてしまったんです」
「うぅ……ご主人様、ごめんなさい。私たち、頑張ったんですけど……」
見れば、料理を担当したという少女たちが涙を流していた。
「いや、アレは俺の体調が悪かっただけだ。気にしないでくれ。それより、ケイトと一緒にもう一度作ってみてくれないか?」
「も、もう一度作って良いのですか?」
「あぁ。ケイトと一緒なら失敗もしないはずだ。頑張ってくれ」
「はいっ! ケイト様、よろしくお願いいたします!」
念の為、私も……と、ケイトに続いてジュリも行ってくれたので、まぁ大丈夫だろう。
「……ところでレヴィアは大丈夫なのか?」
「ん? もちろん。だけどアレックス。無茶はダメ。ドラゴン用の食事を人間が食べたら、あぁなるに決まってる」
「え? ドラゴン用の食事?」
「違うの? 味を度外視した栄養分のみを考えた料理で、懐かしい味だったんだけど」
あの少女たちは、本当に何を作ったんだ!?
しかし、あれを食べた後、とても重要そうな夢を見た気がするんだが、一体何だったのだろうか。
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