挿話100 ドジっ子メイドのジスレーヌ

 来たっ! 来た来た来たっ! やっと新しいご主人様が決まった!

 今まで、若い人間族の女の子や、獣人族の女の子ばかりご主人様が決まっていき、いつも選ばれなかった。

 新入りの子がドンドンお店から居なくなるから、いつの間にかお店で一番の古株になってしまっていたし。

 これはチャンス! ドジっ子メイドとして頑張らなきゃ!

 一先ず、ご主人様に聞こえないように、小声で作戦会議ね。


「……じゃあ、ジスはご主人様への給仕を担当するねー!」

「……えぇっ!? 一番ご主人様にアピール出来る役じゃない! ジスレーヌちゃんだけズルいー!」

「……そ、その。お願い! ジスには後が無いのっ! ここはジスに可愛さアピールをさせてっ!」


 ハッキリ言って、ジスは見た目こそ幼いけど、実は成人なんだよね。

 ご主人様に成人ってバレたら間違いなく捨てられちゃうから、しっかりドジっ子アピールをしなきゃいけないのっ!


「……もぉー。じゃあテーブルと食器類の準備は、十歳チームでやろー。それ以外の子は、私と一緒に調理ね。時間が無いから、皆それぞれの持ち場へ。ジスレーヌちゃん……調理に回る私たちの分まで、しっかりアピールしてきてね」

「……任せてっ!」


 我が儘を言って、ごめんね。

 皆にもらったこのチャンス……全力で活かしてくるからっ!

 という訳で、先ずはグラスにお水を注いで、ご主人様の元へ。


「ご主人様ー! お飲み物をお持ちしま……きゃあ! ……あ、あれ?」

「大丈夫か? もう少しで水が零れて父上に掛かってしまう所だったぞ。気を付けるように」


 え? あれ? 今、ジスは転んだよね?

 自分からわざと転んだハズなのに、いつの間にか幼い女の子に支えられていて、手にしていたコップも零れていない。

 というか、この女の子……一瞬消えた気がしたんだけど。

 ど、どうなっているの!?

 ジスに何が起こったのか分からず、コップを手にしたまま困惑していると、


「君……名前は?」


 ご主人様が話し掛けてきてくれた!

 やった! とびっきり可愛さをアピールしなきゃ!


「はい、ジスレーヌと申します」

「年齢は?」


 あぁぁぁ……よりによって、その質問をしちゃうの!?

 うぅぅ。ジスたちは、どういう訳か大人の男の人に言われた事には、素直に従っちゃうんだよね。

 見た目年齢の十歳って答えたい! だ、だけど、何故か口が勝手に本当の年齢を答えてしまうぅぅぅっ!


「じ……十三歳です」

「十三歳? こう言っては失礼かもしれないけど、随分と幼く見えるな。でも獣耳は無いし……あ、もしかしてドワーフとか?」

「――ッ! そ……その通りです」

「なるほど。だからか。確か、ドワーフは十三歳で成人だっけ」

「よ、よくご存じですね。ご主人様、流石です」


 うわぁぁぁんっ! ご主人様は人間族だよね? どうしてドワーフの成人年齢まで知っているのーっ!?

 うぅ、捨てられちゃう。人間族じゃないし、見た目は幼くても成人だし、何のアピールも出来なかったし……ど、どうしよう。これから一人で、どうやって生きていけば良いんだろ。

 頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなっていると、


「……ヌ。ジスレーヌ?」

「は、はいっ! すみませんでした。何でしょうか!?」


 ご主人様に名前を呼ばれているのに気付けなかった。

 ヤバい、ヤバい、ヤバい。これ、絶対にクビ宣告だぁぁぁっ!


「ジスレーヌがこの街に居るという事は、シーナ国にドワーフの村とかがあったりするのかな?」

「えーっと、あるかもしれませんけど、わからないです」

「そうか。いや、わかった。ありがとう」


 お? よ、よく分かんないけど、助かった? 良かったー!


「あ、ついでに……成人っていう事は、ジョブも授かっているのかな?」

「はい。ディガーっていう採掘を得意とするジョブを授かっています」

「なるほど。ドワーフっぽいね……ちょ、おい! 違うぞっ! ちょっと聞いてみただけで、別にスキルの事とかを考えていた訳じゃなくて……ジュリもマミも、そんな目で俺を見るなーっ!」


 何だろう。ジスがジョブの話をした直後から、何故かご主人様の奥様たちが突然ジト目に……でも、とりあえずクビにされなくて良かった。

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