第770話 適任

「みんな、話を……というか、どうしてこんなに人が集まっているんだ!?」

「アレックス様ぁ。各地が魔法陣で繋がったからですぅー」

「マスター! 魔力補給を……もっとお願いします」


 天后の力でアマゾネスの村へ戻ってきた……と思ったら、何故かフィーネやソフィが居た。

 テレーゼやイネスも居て……あ、イネスが居てくれるのは助かる。


「あっ! おかーん! ただいまー!」

「おー、頑張ったなー! しっかり儲けたみたいやないか。流石やなー」

「うんっ! あ、でもその前に、ここでもおとんのを沢山回収せな! バケツ三つで足りるかなー?」


 レミがレイと再会し、バケツを用意しているんだが……いや、触れないでおこう。

 とりあえず、まともに話が出来る状態にないので、分身たちに頑張ってもらいつつ、俺は海に関する力を持つ天后の所へ……


「……アレックスはレヴィアたんにもするべき」

「あなた。ツェツィに妹を作ってあげましょー!」

「にーにー! ウチに気持ち良いのしてー!」


 行けなかった。

 レヴィア、ナターリエ、ディアナに囲まれ、逃げようとして回り込まれる。

 この三人は分身ではなく、俺自身を狙ってきたか。

 うん。逃げられる気がしないので、無駄な抵抗をせず、むしろ受け入れる事で先へ進むっ!

 という訳で、それぞれ順番で……という事にして、レヴィアを抱きかかえながら、ようやく天后の許へ。


「天后。少し教えて欲しい事が……くっ! ……こほん。海ではなく、水に関する事なのだが」

「~~~~っ! ……な、何でしょうか」

「実は西大陸の魔族領が……っ!」


 いつもより人数が多く、フィーネにテレーゼ、ソフィやレヴィアが本気を出しているから、話が……話が進まないっ!

 とはいえ、少しずつ話を伝え、レヴィアからナターリエに。ナターリエからディアナに代わった辺りで、ようやく話を伝え切った。


「……という訳で、相手を操る相手に対して、有効そうな水の力を使える者は居ないだろうか」

「……水ならレヴィアたんの出番。他の誰かの力なんて借りなくて良い」

「レヴィアちゃん? 今はウチの番だよー!」


 俺の言葉を聞いて、レヴィアが抱きついてきたのでディアナが困惑していると、


「んー、アレックスさん。それなら適任を知っておりますわ」


 天后があっさり適任が居ると教えてくれた。


「本当かっ!?」

「えぇ。ただ、力を貸してくれるかどうかはわからないですが……この北の大陸の何処かに、セオリツヒメという神が居ます。その方は、穢れを水に流して浄化する力を持っているんです。まさに適任かと」

「なるほど。確かに適任だが……神様か」

「はい。少々気難しい方ですが、その分力は本物です」


 なるほど。気難しい神様となると、流石について来てもらう……というのは無理か。

 シェイリーのように、血を少し分けてもらって、何かしらのスキルを得る……というのが現実的なところだな。

 いや、そもそも神様に血を分けてもらうという事が、既に現実的でない気がしなくもないが。


「しかし……セオリツヒメか。何処かで聞いた事があるような気がするんだが」

「……セオリツヒメ? 何故かその名前を聞くと、嫌な感じがする」

「レヴィア? うーん。レヴィアが居る時に会った相手なのか?」


 暫くセオリツヒメについて思い出そうとしていると、


「むー! にーに! 今はウチの番なのー! 他の女の人の事を考えちゃダメなのー!」


 そう言って、ディアナがキューっと締め付けてくた。

 どうやら考え事に集中出来なさそうなので、まずはディアナを満足させる。

 それから、近くで順番を待って居るナターリエに聞いてみたのだが、


「セオリツヒメ? 私は知らないわね。それより、向こうでモニカさんが凄いアクロバティックな事をしているの! 私たちもやってみましょう!」


 どうやらナターリエは知らないようだ。

 いや、天后が北の大陸に居ると言っていたから、ナターリエやディアナが知っている訳ないか。

 という訳で、満足したディアナに代わり、再びレヴィアに抱きつかれながら、北大陸を一緒に行動したミオに話を聞いてみると、


「せ、セオリツヒメじゃとっ!? いとも簡単に我の結界を破った、川の神ではないか」

「あぁっ! 確か、人魚族の村の出入り口で出会った……って、川を汚すなと怒られた記憶しかないんだが」


 天后から良い情報を得たものの、ちょっと難易度が高い気がしてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る