第129話 逃げる騰蛇
「な、なんと。我の言う事を全く聞かない、自分勝手で我が儘で、性格がひん曲がったお子ちゃまでクソガキの騰蛇に謝らせるとは……凄いのじゃ」
いや、ミオは騰蛇の事をメチャクチャ言うな。
まぁそれだけ苦労させられてきたのかもしれないが。
「騰蛇よ。どうやら、アレックスの凄さは分かったようだが……これからはミオに従うのか?」
「はぁ!? どうして俺様がそんなガキの言う事をきかなきゃならねぇんだよ! あくまで、攻撃はしないってだけだ。それとこれとは別問題だろうが」
「ふむ……まぁ、それでも騰蛇からすれば、大きな進歩か」
落ち着いたところでミオに話を聞いてみると、騰蛇はシェイリーと同じくらいの力を持つのだとか。
ただ司る力が違い、シェイリーのように発動前の魔法を妨害したりは出来ないらしい。
……話を聞いた感じからすると、シェイリーは防御寄りで、騰蛇は攻撃寄りなのかもしれないな。
「じゃあ、もういいだろ? 俺様は帰るからな」
「待つのだ。アレックスは神のスキルを持っておってな。騰蛇よ、帰るならアレックスと接吻してから……」
「はぁっ!? 頭がおかしいんじゃないのか!? どうして俺様がこいつと接吻しなきゃならねーんだよっ!」
「だから、神のスキルにより、接吻でアレックスが強くなるのだ」
「知るかっ! だったら青龍がすれば良いだろ! 俺様を巻き込むなっ!」
「我は接吻どころか、お尻で……こほん。アレックスは凄いのだぞ」
シェイリーがエクストラスキルの事を話しているが、途中で話がおかしくなって、騰蛇が小さな手で尻を押さえているのだが……おい、怯えた目で俺を見るな!
「待った! 何を想像しているかは知らないが、俺は変な事はしないし、そもそも嫌がる相手を無理矢理なんて事はしてないからな?」
「む、そうであったな。アレックスは紳士だからな」
「……いや、どう考えても話を聞く限り、そいつは紳士というより変態だろ」
誰が変態だ、誰が。
「アレックスー。変態って何なのー? どういう事ー?」
「ユーディット殿。ご主人様は変態などではない。ご主人様とは、ノーマルなプレイしかした事がないから、安心するのだ」
「んー……とりあえず、アレックスは変態じゃないって事なのかな?」
ユーディットの疑問にモニカが答えてくれたが、モニカとは結構アブノーマルな事を……とりあえず全裸散歩って、ノーマルではないよな?
……まさか、あれってノーマルなの!?
「とにかく、俺様は帰る! それに、そろそろ呼ばれてから五分経つだろ」
「あー、それなんだが。我もミオに呼ばれ……既に五分など、とっくに過ぎておるのだ。アレックスのアレを飲み、ミオの魔力が高まっているし、我と騰蛇……同時に呼び出せている事から、呼び出した後の維持時間も延びているのだろう」
「……じゃあ、自分で帰る! 元の姿に戻るが、帰るだけだから俺様に攻撃するなよ!? いいか、絶対に攻撃するなよ!?」
エリーや人形たちによる、延々と続く魔法攻撃が余程嫌だったのか、何度も念押しし、巨大な蛇の姿になった騰蛇が上空に昇っていく。
一先ず、ミオのスキルで誰も怪我をしなかったので、良しとしようか。
「ふむ。騰蛇が現れても大丈夫だったし、ではもう一度スキルを使ってみるのじゃ。今度こそ、白虎たちが現れる気がするのじゃ」
「ストップ! 今回は何とかなったかもしれないが、無駄に戦いを増やしたくはない。とりあえず、シェイリーは近くに棲んでいるから会いに行けるし、ミオのそのスキルは原則使用禁止にしよう」
「えぇっ!? 何故なのじゃっ!? 我の事を信じて欲しいのじゃっ!」
「いや、それでさっき騰蛇が現れたんだろ? 俺たちも人形たちも、普段は開拓作業をしていて、その手を止めているんだから、ダメだ」
「うぅ……アレックスがイジワルなのじゃ。妻なのにいじめるのじゃ。これは、夫として慰めてもらうしかないのじゃ。夜に」
そう言いながら、ミオが俺に抱きついてきて……どこを触っているんだよっ!
すぐそばにユーディットも居るんだから、やめてくれ。
そんな事を考えていると、再び大きな影が現れ、
「おい! ここは一体どこなんだっ! 俺様の棲み家はどっちに行けば帰れるんだよっ!」
迷子になった騰蛇が戻ってきて……ミオのスキルの効果が切れるまでの間、訓練場に閉鎖スキルで閉じ込め、俺とミオが見張り続ける事に。
……って、ミオは見張りの間に、変な事をしようとするなよ。
「人前でそんな破廉恥な事を……やっぱりお前、変態じゃねーか」
いや、俺は何もしていなくて、ミオが……って、変態って言うなーっ!
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