第128話 フルボッコ

「ミオっ! ≪ディボーション≫!」

「くっ! 熱……くない? 何故なのじゃ?」

「な……何故だっ!? 何故、俺様のブレスを受けて平然としているんだっ!?」


 騰蛇の炎のブレスがミオに届く前に、パラディンの防御スキルを使用し、ダメージを肩代わりする事に成功した。

 ミオは俺のスキルの事を知らない為、不思議そうにしているが、高熱の炎が代わりに俺の身を……って、あれ? 見た目はかなり凄い炎なんだが、思った程熱くないぞ?


「あ、アレックスーっ! ≪ミドル・ヒール≫!」


 一方で、俺の防御スキルの事を知っているユーディットが、慌てて治癒魔法を使ってくれたんだけど……いや、本当に大したダメージじゃないんだよ。


「このっ! よくもやったわねっ! ≪エクス・フリーズ≫っ!」

「ご主人様に……許さんっ! ≪ウォーター・ガン≫」


 エリーとモニカがそれぞれ氷魔法と水魔法を、騰蛇に向かって放つ。


「はっ! 俺様にそんな魔法が効くかよっ! ……ぐっ!? ちょ、ちょっと待て! お前らの魔法はなんだっ!? どうして俺の炎を貫通出来るんだよっ!」


 二人の魔法攻撃は大きなダメージではないかもしれないが、効いているようだ。

 それを見たサクラが、分身スキルを使い、南へ向かって凄い速さで駆けて行く。


「魔法攻撃が有効ならば、メイリン殿に言って、人形たちにも参戦してもらうでござる。拙者の分身にて呼びに行ったので、暫しお待ちを」


 そう言って、この場に残るサクラの本体が、クナイと呼ばれる投擲武器を騰蛇に向かって投げつける。

 しかし、騰蛇が纏う炎に阻まれ、その身体に到達する前に消滅してしまった。


「くっ! 鉄で出来た拙者のクナイを燃やすとは……あの炎は、一体どれだけの高温なのだ!?」

「そ、そうだ。俺様の灼熱のブレスは全てを焼き尽くす! さっきは調子が悪かっただけだ! 今度こそ死ねぇっ!」

「やれやれ。騰蛇よ、その辺にしておけ。≪樹氷≫」


 再び騰蛇が炎のブレスを吐こうとしたところで、シェイリーが魔法を放つ。

 前にも見た事のある氷の魔法で、騰蛇の身体を覆う炎が弱まっていく。


「この力は……青龍か!? 邪魔するなっ! というか、ミオは俺たちを一体ずつしか呼べないはずなのに、どうしてお前が居るんだよっ!」

「やめておけ。このアレックスは、我を封じていた魔族の四天王を倒す程の実力があり、その上、我を含めた仲間を強化するスキルを持っている。今ならアレックスも命までは取らないだろう」

「何だと!? ……その人間の男がアレックスか。ならば、お前から先に殺してやるっ!」


 シェイリーの魔法で炎が弱まったからか、騰蛇が少し後ろに下り、俺に向かって勢いよく突っ込んで来た!

 迫り来る巨体を剣で斬るのは無理なので、盾を構え、


「≪シールド・チャージ≫」


 突っ込んで来たタイミングに合わせて突撃すると、騰蛇が大きく弾き飛ばされる。

 騰蛇は、以前に同じスキルで吹き飛ばしたオークキングよりも遥かに巨大なのだが、ユーディットから貰ったチャージスキルで突撃力が増しているおかげだろう。

 ……どうやら、このスキルは武器に依らず、突撃系の動作で発動するようだ。


 シールド・チャージで騰蛇の体勢を崩した所で、再びエリーとモニカの攻撃魔法が放たれる。


「待たせたでござる。援軍でござる」


 その上、サクラの分身が連れてきた大勢の人形たちが怒涛の攻撃魔法を放つ。

 大量の氷魔法と水魔法を浴び、騰蛇の動きが鈍くなったところで、


「≪ホーリー・クロス≫」


 その身体を十字に斬り裂いた。


「わかった! わかったから、一旦話し合おう。なっ! やめやめ。攻撃を止め……いや、頼むから止めてくれよ」


 そう言って、ギブアップとでも言うかのように、騰蛇が赤髪の幼い男の子の姿になる。


「まいったよ。降参だ、降参。ミオや、アンタたちに攻撃した事は謝る。だから……いや、マジで攻撃魔法を止めてくれって」


 あ、そうか。人形たちは、俺かメイリンの指示にしか従わないのか。

 未だに離れた所から魔法攻撃を続ける人形たちの所へ行き、一先ず攻撃解除の指示を出して回った。

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