第607話 魚村へお泊り

「まぁいろいろ言いたい事が無くもないですが、せっかく地上から来られたのです。今日はもう遅いですし、どうぞこの村へ泊っていってください」

「いや、頑張れば帰れなくは……あー、このテイムしてしまった三人をどうするかもあるか。すみません。では、甘えさせていただきます」

「いえ、お気になさらず。ここの離れになるのですが、客人用に用意している普段使っていない家がありますので、そちらへ案内させますね」


 村長さんの言葉で、変わった格好に身を包んだ猫耳族の女性が二人やって来た。


「こちらへどうぞ」

「すまない。礼を言う」


 この二人からは、特に敵対心などは感じられないので、庭の中を歩いている途中で少しだけ質問してみる。


「すまない。その服装は何を表しているのだろうか」

「こちらは、魚村の伝統の服ですね。着物という服です」

「着物……へぇ、聞いた事がないな」

「ちなみに、私たちのような者が仕事着は上下別々に分かれているのですが、村長やベルティーナ様が着ている着物は、上下が分かれていない一続きの物で、本来はそちらが正式な着物なのです」

「ん? さっきは二人とも普通の服だったが?」

「そうですね。ギルベルト様のところへ、税を収めに行く際に着られておりますね」


 ふむ。ギルベルトから襲われないようにするため、税を納めていたと。

 第一魔族領には魚村と野菜村しかないので、金銭などではなく、食料などを納めていたのだろうか。

 それか、あくまでギルベルトが支配者だと分からせるようにする為の、形式的な物だったのか。

 実際のところは分からないが、年に一度、村長とベルティーナがギルベルトの所へ行っていたようだ。

 丁度話が終わったところで、それなりに大きな平屋へ着いた。


「本日は、こちらでおくつろぎくださいませ」

「ありがとう」

「食事をご用意いたしますので、それまでの間、湯浴みをどうぞ」


 風呂もあるのか。

 塔でいろいろあった後、そのまま――結衣が綺麗にしてくれているが――だったので、是非入りたいところだ。


「では、ありがたく入らせていただくよ」

「承知致しました。ただ……えっと、こちらの三名はベルティーナ様の親衛隊の方ですよね? お客様を護衛するようにとベルティーナ様から指示があったのでしょうか?」

「そ、そんなところだ。ベルティーナからの任務らしい」


 い、言えない。

 俺に攻撃すると、強制的に服従させられるとか。

 まぁこの二人は攻撃してくる素振りがないので、大丈夫だとは思うが。

 ひとまず風呂へ案内された後、二人が食事の準備をすると言って戻って行ったのだが、


「ご主人様。お願いがございます」

「……な、何だろうか」

「夜のご奉仕の為、身体を清めたいのですが、許可をいただけますでしょうか」

「夜の……は不要だが、風呂は自由に入って欲しい」

「ありがとうございます」


 うーん。もしかして、このテイムしてしまった二人が何かしようとする度に、毎回このように許可を求められるのだろうか。

 正直、自由にしてもらいたいのだが……あ、コルネリアも俺と同じ事を思ったのか、困った表情を浮かべているな。

 とりあえず、明日にでもランランやシェイリーに相談してみようか。


「パパー! あのねー、メイリンママけいゆで、エリーやリディアから、もどってこれないなら、おーせスキルをつかってーって」

「そ、そうなるのか。とりあえず、今はそういう状況ではないので、善処はすると伝えて欲しい」

「はーい!」


 ここで逢瀬スキルを使用したら、せっかく好意で泊めてもらっているのに、風呂が大変な事になってしまう。

 そうなると、ただでさえ村長やベルティーナから冷たい視線を向けられているというのに、その視線が更に冷たくなってしまうからな。


「皆も、変な事はしないように。普通に風呂へ入るからな?」

「えぇっ!? うぅ……残念です」


 ナズナが露骨に残念そうな表情を浮かべるが、ダメなものはダメだからな?

 それに、大勢の客人が来る事が想定されているのか、そもそも男湯と女湯が分かれていた。


「では、また後で。ナズナ、大丈夫だとは思うが、一応女湯の警戒は頼む」

「は、はい。承知しました」

「むー。僕もアレックス様と一緒に入りたかったなー」


 若干不満そうなナズナとコルネリアを見送り、俺は一人男湯へ。

 久々に一人の時間だ……と思いながら脱衣所で全裸になったのだが、


「――っ!? ご、ご主人様のは、凄まじいのですね」

「姉様。私は初めて見るのですが、やっぱり凄いのですか?」

「私も幼い頃に父上のを見た事があるだけだが……く、比べ物にならない」


 テイムしてしまった二人の猫耳族の少女が、何故か全裸で男湯に居て……まじまじと俺の身体を見ていた。

 いや、どうしてだよっ!

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