第241話 職務質問
「さて、じゃあ情報収集に行って来る」
「父上、お供いたします」
ジュリは未だに幸せそうな顔で気を失ったままだが、一先ずマミを満足させたので、元の姿へ戻って衣服を整える。
ちなみに、リザードマンとの交易で手に入る布が足りておらず、人形たちはウサギの皮を服みたいにして着ている者が大半だが、今回は街へ情報収集するにあたり、ツキは普通のを着ていた。
タバサに依頼して送ってもらっている、ニナの服を借りてきたのだが、流石に少し大きいものの、八歳のツキがそこまで違和感なく着れてしまう……いや、深く考えるのはやめておこう。
「アレックス。私が街を案内するポン」
「それはありがたいが、マミやジュリはこの街で顔が知られているだろう? 俺とツキが一緒に居たら、誰だ? って話にならないか?」
「確かに私は自警団のお世話になっているポン。でも、私は街ではこの大人の姿で過ごしているポン。こっちの……本当の姿はジュリしか知らないから大丈夫ポン」
「なるほど。それなら確かに大丈夫そうだが……良いのか? 何か理由があって、姿を変えているのだろう?」
「あ、大丈夫ポン。子供より大人の姿の方が、お仕事的に信頼を得やすいから、そうしているだけポン。獣人も普通に暮らしている街ポン」
獣人が普通に暮らしている街というのは国の文化の違いだろうか。
フレイの街では一度も見た事がなかったからな。
まぁマミのように姿を変えているという可能性はあるかもしれないが。
一先ず、マミと共に街へ出掛ける旨を紙に記し、ベッドの側にあった机に置いておいた。
「では、今度こそ行くか」
俺は普段着で剣だけを腰に下げ、常に子供服を準備しているマミとツキを連れてジュリの家を出る。
青い屋根の平家……ここがジュリの家か。忘れないようにしないとな。
「アレックスは、どういう情報が欲しいポン?」
「この街……出来れば、この国の地理が知りたくて、地図が手に入るとありがたいのだが」
「うーん……この国では、地図は軍事情報扱いポン。自警団にも、この街の周辺の簡易な地図があるだけで、国全体の地図なんて手に入らないポン」
なるほど。この辺りも国の考え方の違いか。
とりあえず、その辺は冒険者ギルドで話を聞いてみると、また何か違う情報が得られるかもしれないな。
しかし、それにしてもフレイの街……というか、故郷の国とは雰囲気が全然違う。
ギルドの依頼で国内の色んな街へ行った事もあるが、街並みというか、建物の造りや雰囲気も違うし、何より露店で売っている食べ物が大きく異なる。
あの料理は初めて見るが、何の肉なのだろう?
売られている服も、デザインが独特で……メイリンやサクラが着ているような服に近いな。
それから、マミの言う通り獣人族が普通に歩いていて……ん? 一人、獣人族の男がこっちへ向かって来る。ジロジロ見過ぎてしまったか?
「おい、そこの男……見ない顔だな」
「あぁ、最近この街へ来たばかりなんだ」
「ほぉ……まぁいいだろう。それより、この女児とはどういう関係だ? 俺はこの街の自警団に所属する者だ。返答次第では、臭い飯を食ってもらう事になる」
「ん? ツキの事か? 俺の娘だが」
「娘!? いや、どう見てもお前は、未だ二十歳にも満たないだろうが」
そうか。今更だが、俺とツキの組み合わせは変か。
人さらいと思われても仕方がないかもしれないな。
「そう言われても、事実なんだが……ツキ、おいで」
「はい! ち……パパー!」
ツキが空気を読んで呼び方を変え、抱きついてくる。
より父親らしさを出す為に、抱きかかえると……って、男から見えないからって、首にキスするな!
「うーん。お前さんの見た目が若いだけか……だが、そっちの獣人族の幼女はどうなんだ!? 流石に娘ではないだろう!」
「もちろん娘じゃないポン! 私は妻ポン! 容姿は幼くとも、とっくに成人ポン!」
「え……? ま、マジで!? 妻……なのか!?」
「マジポン! 旦那様とは毎晩イチャイチャらぶらぶしているポン!」
おい……いや、完全にウソという訳ではないんだが、マミは他に何か言い訳は無かったのだろうか。
あと、ツキを抱きかかえて手が塞がっているのを良い事に、抱きついて変な所を触るなよっ!
「……わかった。まぁ人の趣味に口出しする気はないが……いや、何でもない。悪かったな」
そう言って、獣人の男が去って行く。
ただ、物凄く引かれていた気がするが。
「旦那様。何事も無く切り抜けられて良かったポン!」
「パ……パパ。出来れば、このまま抱っこしていて欲しいです。お、おんぶでも良いですから。ほ、ほら、同じ様なトラブルを回避する為に、親子っぽく振舞った方が良いではないですか」
何だろう。何も問題が無かったといえば無かったのだけど……変な事になってしまった。
とりあえず、ツキをおんぶする事になったのだが、
「……わ、私もして欲しいポン! ズルいポン!」
面倒臭い事になってしまった。
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