第242話 奴隷商人と聖騎士
「冒険者ギルド? この街には無いポン」
「そうなのか。それは想定外だな」
何処の街へ行っても冒険者ギルドがあると思っていたので、情報収集といえば、そこへ行けば良いと思っていたのだが、いきなりつまずいてしまった。
「とりあえず、自警団は後でジュリと相談するとして、次に知りたいのはこの街の特産品かな」
「どういう事ポン?」
「いや、可能であれば取引を行いたいと思っていてさ」
「んー、でもアレックスの国は敵視されているから、正直難しい気がするポン。それに壁があるから、荷物の運搬も難しいポン」
そう言って、マミが北にある大きな壁に目を向ける。
空を移動していた時は樽の中だったから見えなかったけど、街の北側の魔族領を分断するかのように、かなり高い壁が東西に向かって延々と続いていた。
だが、街から離れた所へヴァレーリエに運んでもらうとか、シェイリーの魔法陣だとか、ソフィに何か作ってもらうとか……何かしら方法はあるだろうと思っている。
スノーウィの国のように、定期的に転移魔法で取りに来てもらうとか。
「とりあえず特産品と言えば、農作物や畜産に鉄が採れるって聞いているポン」
「んー、魔族領のすぐ側だからか、こっちと同じような事をしているのか」
リザードマンの村とは、魚や布と、野菜や鉄器と互いに作っているものが異なったが、このウララドの街では、もっと細かく何の作物を作っているか調べる必要がありそうだ。
既に作っている作物を持って来ても良い顔はしないだろうし、元々作物を作っている人たちも困るだろうからな。
とりあえず、領主……は難しいと思うので、商売をしている者から話を聞こうと、作物を扱っている露店を探す。
「この辺りは料理を売っている店はあるが、野菜や果物を売っている店は無さそうだな」
「それなら、あっちの通りポン。案内するポン」
マミが俺の手を引いて歩いて行くと、突然足を止める。
「ん? どうかしたのか?」
「やっぱりこっちの道はやめるポン。向こうから行くポン」
そう言って、マミが元来た道へと引き返そうとしたところで、
「いやぁーっ!」
悲鳴が聞こえてきた。
「父上、あそこです!」
「あぁ。行くぞ」
「ま、待つポン! あれは……」
マミが手を離さないので、小さな身体を抱きかかえて走ると、男が紐で縛られた幼い女の子を引っ張っている。
「何をしている!」
「あぁ!? うるせぇ! 関係ねぇ奴は黙ってろ!」
「その子とは関係なくとも、子をもつ親としては見過ごせないな」
「はぁ!? お前はバカなのか!? ……おい、お前ら。このバカを殺せ」
男の言葉で、女の子が住んでいたであろう家から、剣や斧を持った男たちが出て来た。
「あの男だ……やれ。女たちは傷つけるなよ。商品にする」
「承知。……ヒャッハー! 俺たちに歯向かうバカが未だ居たとはなっ!」
「お? 腰の剣は抜かねぇのか? 十人が相手でビビっちまったか!? だが命乞いはもう遅いぜぇぇぇっ!」
なるほど……商品か。
人さらいや、奴隷商人と言ったところか。
……許さん!
「≪ディボーション≫」
念の為に、パラディンの防御スキルでツキとマミ、それから女の子を守ったところで、男たちが斬りかかってきた。
「オラァッ! ガキを置いて死にさらせ……ごふぁっ!」
「何だ、コイツは!? 剣や斧を相手に素手で……うごぁっ!」
「こいつ……格闘術を使うグラップラーだ! 囲めっ! 四方向から同時に……ぼげぇぇぇっ!」
男たちは武器を持っているだけで、戦い方を知らないようだ。
剣を抜くまでもなく、蹴散らしていくと、
「何をやっている! そっちのガキ二人を狙え! 人質にしろっ!」
「お嬢ちゃん、悪く思うなよ。悪いのは俺たちに歯向かおうとした……ぐっ! 何だ、このナイフは!? 何処から出したんだ!?」
「どうなっているんだ!? こっちは十人も居たのに……くそっ! そこの獣人の女! 死にたくなければ……おぐゎぁぁぁっ!」
マミに剣を向けた男は俺が蹴り飛ばしたが、ツキはこれくらいの相手なら遅れは取らないようだ。
ただ、刃物を使っているので、注意は必要だが。
「ツキ。相手は悪人だが、殺さないようにな。きっちり裁きを受けさせる」
「あの、父上……それなら、私よりも父上に襲い掛かった者を心配された方が良いかと」
「く、クソがっ! 俺様に逆らうという事は、この街の……ぐほぁっ!」
最後に少女を引っ張っていた、親玉っぽい男を蹴り倒し、全員を戦闘不能にしたのだが、ツキの言葉はどういう意味だろうか。
ツキは刃物だが、俺は素手なんだが。
「あの、父上。不思議そうにされていますけど、明らかに私の相手よりも、父上が殴り飛ばした相手の方が重傷……というか、瀕死ですよ?」
言われて見てみると、確かに虫の息だったので、少しだけ治癒魔法で治してやる事にした。
……手加減して殴ったんだけどな。
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