第243話 自警団

「おにーちゃん、ありがとう!」


 助けた女の子の紐を切ると、お礼を言いながら抱きついてきた。

 未だ隠れている奴が居るかもしれないので、防御スキルは解除せず、家に帰るように伝えると、嬉しそうに走って行った。


「アレックス……結構、マズい事をしたポン」

「ん? 何がだ?」

「……父上が間違っていると申すのか!? 場合によっては許さぬ」


 戦闘があったからか、殺気立っているツキを宥めながら、マミに続きを話してもらう。


「このリーダー格の男は奴隷商人ポン。私も心情的には消えて欲しいけど……この街では、奴隷商人は暗黙の了解というか、税金を納められない家の代わりに税を納めるから、領主が見て見ぬふりをするくらいの存在ポン」

「この国では、それが普通なのか?」

「そこまでは分からないポン。でも、少なくともこの街には、闇ギルドがあって、奴隷商人や暗殺者なんかが蔓延っているという噂ポン」

「見て見ぬふりか……後でジュリに自警団の認識を聞いてみよう」


 一旦ジュリの家に戻る事にした所で、


「あの……娘を助けていただき、ありがとうございました」


 先程の女の子の母親らしき女性が出てきて、頭を下げられた。

 話を聞くと、旦那さんが怪我をしてしまい、働けなくなっていたのだとか。

 一先ず治癒魔法で怪我を治してあげると、家の外に出た後、


「あ、あの、ここまでしていただいて。でも、お礼に出来るような物が何も無く……」

「いえ、これも何かの縁なので、気になさらないでください」

「せ、せめて私が身体で……」

「大丈夫! そういうのは、本当に大丈夫だから!」


 女性が変な事を言い出したので、ツキの顔が再び険しくなってしまった。


「あ、その年齢で、もうそういう事が分かっちゃう、おませさんなんですね。でしたら、夜にでも貴方様の家に伺わせていただいて……」

「いや、本当に大丈夫だから」


 女性に礼は不要だと念押しし、殴り倒して動かなくなっている男たちを引きずって行き、少し離れた場所へ集めると、


「≪閉鎖≫」


 ミオから貰ったスキルで男たちを閉じ込める。


「とりあえず、こいつらは自警団に引き渡そう。ジュリが起きているかわからないから、自警団の詰所みたいな所へ案内してくれないか?」

「……わかったポン。でも、あんまり期待しない方が良いポン」


 マミの言葉がどういう意味だろうかと考えながら、自警団と書かれた建物へ。

 思っていたのよりも小さな建物だが、それはさて置き、受付みたいな所へ。


「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」

「子供を拐おうとしていた男たちを捕まえたのだが、引き取ってもらう事は可能だろうか」

「賞金首を捕まえたという事でしょうか?」

「賞金首かどうかは知らないが、目の前で女の子を拐おうとしていたのは事実だ」

「……少々お待ちくださいませ」


 受付の女性が、物凄く困った表情で奥の部屋に消え、暫くしてから戻って来た。


「お待たせしました。こちらへどうぞ」


 通された部屋に行くと、線の細い男が立ち上がり、


「副団長のリュウホウです。何でも奴隷商人を倒し、女の子を助けていただいたとか」

「アレックスだ。その通りで、十人くらいの男と共に、女の子を連れ去ろうとしている所に偶然出くわし、助けた次第だ」


 挨拶を交わして話を始める。


「それはそれは、ありがとうございます。しかしながら、賞金首となっている男であれば、賞金をお渡しする事が出来るのですが、そうでなければ何も出来ないのが辛いところ。一先ず、その奴隷商人とやらを確認させていただいても宜しいでしょうか」

「もちろんだ。俺のスキルで動けないようにしているから、運べるように何人か連れて来てくれると助かる。あと、賞金の為に助けた訳ではないから、そういったものは不要だ」

「それは助かります。では、何人か部下を連れて参りましょう」

「頼む……ところで、副団長と言ったが、自警団には副団長が複数居るのか?」

「えぇ。現在、副団長は三名居りますね。もしかして、どなたかお知り合いでも?」

「いや、そういう噂を聞いた事があっただけだ。良い機会だから、聞いてみただけだ」


 そんな話をした後、リュウホウが人を連れてくると言って、一旦部屋を出ていった。

 物腰は丁寧だが、何となく信用ならない……そんな印象を持ち、ジュリの事を伏せたのだが、俺の勘は合っているだろうか。

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