第939話 言い分

「スノードロップだ! 悪のスノーウィの犬になり下がった雌……」

「誰だっ! スノーウィ様の事を悪く言う奴は!」

「うむ、そこは同感だ。我が兄、スノーウィの事を悪く言う者は許さぬ!」


 スノードロップがレヴィアの迫力に押されたところを見て、よせば良いのに便乗した男が、ネーヴと共に詰められている。

 レヴィアは自分に害となる事には怒るが、関係無ければ気にしないからな。

 きっと、レヴィアが守ってくれると思ってしまったのだろう。


「さっきは、あんなに幼い子供相手に弱気だったのに……」

「それは、あのお方の力を見れば……というか、わかっていないお前たちは幸せそうだな」


 スノードロップが引きつった笑みを浮かべながら、大男を何度も軽々と投げ飛ばす。

 怒っているようだが、命を奪ったりしようとしている訳ではなさそうなので、暫く様子を見ていると、


「す、スノーホワイト様! どうかお助けを!」

「何故だ? 兄を侮辱した者を、どうして私が助けるのだ? むしろ、次は私がその口を利けぬようにしてやるつもりなのだが?」

「ち、違うのです! 聞いてください! これを聞けば、スノーホワイト様もスノーウィ様の心無い施策が、如何に酷いかがわかります!」

「……そうまで言うのであれば、申してみよ。スノードロップよ。一旦、手を止めるのだ」


 ネーヴが話を聞くと言ってスノードロップを制止すると、大男がすぐにネーヴの足下で跪く。

 やはり、見た目は派手に投げられていたが、大したダメージではなかったようだ。

 まぁスノーウィもかなり頑丈だったし、そもそもこの身体の大きさだからな。


「スノーホワイト様。スノーウィが宰相になってから、新たな交易を始めたと申し上げさせていただきました」

「そうだな。先に言っておくが、その交易を行っている国の事を悪く言うのであれば、この場で首を刎ねるぞ」

「ひゃ、百歩譲って交易自体は良しとしましょう。友好国を作っておくのは良い事ですしな」


 ネーヴが本気で怒っているのがわかったのか、先程と大きく意見を違えてきたが……まぁとりあえず続きを聞こう。

 投げられていた男を支援するかのように、他の大男たちもネーヴの前で跪く。


「スノーホワイト様! 事もあろうに、スノーウィは交易で得た野菜を食べろと我らに言うのです!」

「魚や貝という旨い食べ物が豊富に獲れるというのに、わざわざ野菜ですよ!? この地では作る事が出来ない……つまり、無理に摂る必要もない食べ物をわざわざ交易までして!」

「あのような緑の野菜など、いわばただの葉っぱではありませんか! 我らは雪の国に住むスノーフェアリー族! 昆虫のように葉っぱを食べるなど言語道断です!」


 あー、つまり、スノーウィが魔族領から得た野菜を、国民も食べるように言われていると。

 で、野菜なんて食べたくない……と怒っている訳か。

 いや、その、まぁ種族の話だし、野菜が嫌いだと言われたら俺も辛いのだが……俺たちのせいで、スノーウィが必要としていない作物を国民に無理矢理食べさせているというのであれば、確かに問題だな。

 交易辞退は続けるとしても、交換する量を調整したり、何か別の物と海産物を交換してもらった方が良いのかもしれない。

 大男たちの話を聞き、今後の交易についてどうするか考えていると、スノードロップとネーヴが揃って大きな溜息を吐く。


「貴様ら……大昔から、長老会で偏食問題について議題に上がっているのを知らんのか? 我が国は野菜を食べなさ過ぎて、身体を壊す者が多いという問題改善の為に、スノーウィ様が動いているのではないか!」

「私が宰相をしていた時から、国内で雪に強い野菜を作るように指示していたのだが……まさか、お前たちなのか!? 私の国民食料改善施策を邪魔していたのは!」


 スノードロップとネーヴが大男たちに詰め寄り、投げられていた時よりも辛そうな表情をしている。

 とりあえず助け船を出してやろうかと思ったのだが、


「し、しかしですね。あの野菜……マズいじゃないですか」

「お前たち。よりによって、うちで作った作物をよくもマズいなどと……」

「アレックス! 待ってくれ! 気持ちはわかるが、アレックスが本気を出したら建物が壊れてしまう!」


 リディアが生み出し、メイリンの人形たちが毎日世話をしてくれている作物をマズいと言われ……気付いたら俺がネーヴに止められる側になってしまっていた。

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