第940話 エミーシ国の食事事情

「まったく……うちの作物は似ても焼いても旨いのに、一体どういう食べ方をしてるんだ?」

「え? そのまま食べているんだが?」

「まぁ生で食べても旨いが、火を通した方が旨くなる作物だってあるぞ?」


 キャベツやキュウリにトマトなんかは生でそのまま食べても美味しいが、ほうれん草やナス、タマネギなんかは是非とも火を通して食べてもらいたい。

 というか、料理が出来ない俺だって、流石にそれらは生で食べないが。

 とりあえず、大男たちがどういう調理方法で食しているのかを聞いてみると、


「え……火? そんなの使う訳がないだろう」

「……じゃあ、調理はどうやっているんだ?」

「どうやって……って、魚なら丸ごと食べるし、貝は流石に殻から身を外して食べる。野菜は水で洗って、土を落としたらそのまま食べているが」


 調理とかってレベルではなかった。

 エリーやリディアたちには遥かに劣る俺ですら、こいつらに比べたら料理が上手いと言えるレベルだ。


「ネー……スノーホワイト。まさか、この国の食事って、殆どこんな食べ方なのか?」

「まぁ火が禁忌……とまでは言わないが、あまり火を好まない種族ではあるからな。致し方ない気もする」

「……あ! じゃあ、小麦粉なんかはどうやって食べているんだ?」


 あんなの火を通さないと、間違いなく腹を壊すと思うんだが。


「小麦粉? ……あぁ、あの倉庫に沢山押し込まれている毒の粉か。あれは流石のスノーウィも、食べろとは言わないな」

「毒じゃない……あれは、火を通せばパンやパスタになるんだよ!」

「どうやって?」

「いや、それを俺に言われても辛いが……スノーホワイトは作れるか?」


 ネーヴに助けを求めるように顔を向けると、静かに首を横に振る。

 まぁネーヴもこの国の出身だもんな。

 スノードロップは、この国の女性だが、どうなのだろうか。


「君は、スノーウィが交換した作物をどのように食べているんだ?」

「え? 同じだけど? 流石に一口大に切るけど、生のまま我慢して……こほん。お、美味しく食べています」


 スノードロップが急に怯えだした……と思ったら、レヴィアと目が合ったからか。


「レヴィアはパンを作ったり……」

「ん? お腹の中に入れば全部一緒。問題無い」


 そういえば……昔、子供たちが作った、俺ですら気を失う程の料理? をレヴィアは平然とした様子で見ていたな。

 料理に関しては、レヴィアに振るのはやめようと思ったところで、意外な者が手を挙げる。


「パパー! ユーリがごはん作るよー!」

「ユーリ、大丈夫なのか!?」

「うん! メイリンママ経由でー、リディアさんとかエリーさんが、いろんな料理の作り方を教えてくれているのー!」

「なるほど。じゃあ、俺も手伝うから一緒に美味しい野菜の食べ方を教えてあげようか」

「うんっ! ユーリ、パパと一緒に作るー!」


 野菜を食べない種族の食生活改善と、調理方法を知らないが故にうちの作物をマズいと言う、酷い評判を覆すべく、ユーリと共に料理をする事にしたのだが、ネーヴから待ったが掛かる。


「しかし、アレックスよ。調理器具……包丁やまな板はまだしも、この国に火を使うような場所はないと思うぞ?」

「なるほど。それは問題だな。しかし、寒さに強い種族だと思うのだが、暖を取る為に火を使ったりはしないのか?」

「しないだろうな」


 困ったな。

 俺が使える火といえば、フレイムタンだが……何か燃やせるものはあるのだろうか。

 鍋に対してフレイムタンを使えば、鍋を真っ二つにしてしまいかねない。

 ここにリディアがいてくれれば、精霊魔法でいろいろと対応してくれそうなのだが、無い物ねだりをしても仕方がないか。

 ユーリも神聖魔法しか使えないはずだし、レヴィアは水で、ネーヴは雪だ。

 何とか出来ないかと考えていると、


「あの……熱が得られれば良いというのであれば、一応心当たりがあります」


 スノードロップがレヴィアから距離を取りながら、恐る恐る口を開く。

 どんな物かはわからないが、とりあえず可能性があるなら……と、向かってみる事にした。

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