第938話 スノードロップ

「何らかの力で、スノーウィがこちらの事を探っているのであれば、このままここに居れば、スノーウィが迎えに来てくれるのでは?」

「ど、何処の誰だかは知らぬが、スノーホワイト様と一緒に居る人間族の男よ! バカな事を言っていないで、スノーホワイト様を逃がすのだっ!」


 俺としては、スノーウィに合流するのが最優先だと思うのだが……全否定されてしまった。

 まだ、この男たちの言う事も、どう扱うべきか情報が足りなさ過ぎて、何とも言えない。

 それに、スノーウィがネーヴに危害を加えるようにも思えないので、話を聞くべきだと思う。

 だが、中々俺の思う通りに物事は進まないらしい。


「貴様っ! 一度ならず、二度までもっ! アレックスの事をバカだと!? もう許せぬっ! ≪風花≫」


 怒りだしたネーヴが、止める間もなく何らかのスキルを使用し、建物の中だというのに雪が舞う。

 大きな雪の結晶が大男に貼り付き、凍りついていく。


「おぉ、スノーホワイト様の! これは……何とも心地良い! ……しょ、少々威力が強すぎますが」

「当然だ! 私がお主らの冷気耐性を知らぬ訳なかろう! 先程の問題発言をした者が凍りつく程度の魔力は込めた」

「スノーホワイト様。しかしながら、この者の言い方に問題があったかもしれませんが、言っている事は事実です。早くお逃げ下さいませ!」


 ネーヴ曰く、この大男たちは雪国であるエミーシ国に住んでおり、寒さに強い耐性があるので、この程度であれば何の問題も無いそうなのだが……ネーヴのスキルを受けた者が完全に凍っているけど、本当に大丈夫なのか?


「ネーヴは、どう思うんだ?」

「どうもこうもないさ。私だってスノーウィが悪しき者だとは思っていないし、アレックスの意見に賛成だ。ただ、スノーウィが偵察のようなスキルを使ったかな? ……とは思っている」

「え? じゃあ、誰かが俺たちを見ているのは間違いないとして、それがスノーウィではない可能性があるという事か」

「えぇ。私を裏切った元部下、スノードロップが偵察系のスキルを得意としていたから、もしかしたら……」


 ネーヴが口にした、スノードロップという名前は初めて聞くが、苦虫を噛み潰したような表情と今の話から、ネーヴの敵だという事は間違いなさそうだ。

 ネーヴの敵という事は、俺の敵であるとも考えて良いはずなので……更にスノーウィが来るとは限らないのなら、一旦この場を離れるか。


「ネーヴ。スノーウィではないのなら、ここを離れよう」

「そうだな。面倒な事は避けたい」

「……アレックス。もう来てる」


 ネーヴと共に外へ出ようとしたのだが、レヴィアに待ったが掛けられ……その直後に扉が開かれる。

 入って来たのは、ネーヴと同じように肌が透き通るように白い女性だった。


「スノーホワイト様……本当に生きていたんですね」

「やはり、貴様だったか。スノードロップ。今更私に何用だ?」

「それはこちらの台詞です。国外で細々と暮らしているならまだしも、罪人でありながらドレスを着て、この国へ戻って来るとはどういう了見ですか?」

「私の故郷だ。戻って来て何が悪い」


 スノードロップと呼ばれた女性とネーヴが睨み合い、一触即発という所で、


「……寒い。閉めて来て」


 レヴィアがスノードロップを軽く押し……見事に吹き飛んだ。

 まぁその、ネーヴの魔力は高いけど、身体能力はそこまで高くないからな。

 元部下だというスノードロップも同じ感じなのだろう。

 顔を引き攣らせながら戻ってきたけど、レヴィアに言われた通り、扉を閉めて入ってきた。


「……大丈夫か? 治癒魔法なら使えるが」

「ユーリも使えるよー!」

「…………お、お願いします」


 後ろでネーヴがそんな奴に……と怒っているが、顔が完全に怯えているので、とりあえずユーリと二人で治癒魔法を使っておいた。


「……こ、こほん。ゆ、雪の宰相スノーホワイト! 今更この地に……」

「……さっき聞いた。寒いから手短に」

「は、はいっ! この私が自ら引導を……」

「……誰に?」

「あ、あちらの同族の女性にです! あ、貴女様には指一本触れません!」


 スノードロップがレヴィアに睨まれ、泣きそうになっていた。

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