第937話 現宰相スノーウィ

 俺たちが建物へ入ってから、物凄く視線が刺さる。

 まぁ明らかにエミーシ国の者ではないし、貴族のような服装だし、ユーリは天使族だからな。

 そんな中で、意を決した様子のスノーウィ似の男性……というか全員同じに見える……の一人が近付いてきた。


「あの、失礼ながら……もしや雪の宰相スノーホワイト様では!?」

「そうだが?」

「おぉっ! やはりそうでしたか! あの呪いの炎が消え、巷ではスノーホワイト様の死亡が噂されていたのですが、ご無事で良かったです!」


 そう言って、男が深々と頭を下げる。

 ネーヴの元部下とか、そういった類の者だろうか。

 周囲がざわつき、他の者たちも近付いてきた。


「スノーホワイト様っ! スノーホワイト様が戻られたぞっ!」

「これで、エミーシ国も救われるっ!」

「悪の宰相スノーウィマウンテンを引きずり下ろすのだっ!」


 集まった大男たちがネーヴの前に平伏していくが、とりあえず聞き流せない事がある。

 だがネーヴも同じだったようで、先に口を開く。


「悪のスノーウィを引きずり下ろすとはどういう事だ!? 我が兄だと知っての発言であろうな!?」

「もちろんです。妹であるスノーホワイト様を裏切り、呪いを掛け、宰相の座を得た悪しき者です」

「いや、その時点で間違っているのだが……まぁそれはそれとして、兄が宰相となり、実際に何か改悪された事でもあるのか?」

「大アリです! 今もこうして、スノーウィの悪行に対し、どのようにすべきかと集まって意見交換していたところなのです!」


 うーん……前にスノーウィと話した時は、普通に妹思いの良い男だと思ったのだが、国民に対しては違うという事なのだろうか。

 確かに最近会っていなかったが、急変した……とかだろうか。

 西大陸であった、実は神族が成りすましている……とかでなければ良いのだが。


「横から失礼。スノーウィの友人でアレックスという者だが、突然急変したのだろうか」


 あまりにも気になり、思わず横から口を出してしまったが、ネーヴと共にいるからか、男たちが次々に応えてくれた。


「そうだな。ある日、いきなり他国と交易を始めると宣言したんだ。あれが地獄の始まりだった」

「確か、サンダー国……だったか? 他国の独立を支援するとか言い出したよな」

「アレキサンダー国な。国民が獲った海産物を、あんなよく分からない国にくれてやるなんて」


 なるほど。

 俺たちとの交易が悪の一つだと言っているのか。

 あの時はネーヴも一緒に居たし、スノーウィが偽物……という事はなさそうだ。

 魔族領の作物と交換してもらっている海産物が、この国では特別な意味を持っていたりするのだろうか。

 冷静に状況を分析しようと努めていたのだが……


「貴様らっ! よりによって何という事を言い出すのだっ!」

「スノーホワイト様っ!? しかしながら……」

「うるさいっ! どうやら、雪の宰相の頃の私を見せねばならぬようだな!」


 ネーヴがキレたっ!?

 全身から白い冷気のようなものが……とりあえず止めよう。


「スノーホワイト。気持ちは分かるが、俺たちがここへ来た目的を忘れないように」

「……っ! そ、そうだった。せっかくこの日の為に仕立てたドレスが、私の冷気で凍り、砕けてしまうところだった」

「そ、そうだぞ。せっかく綺麗なのだから、いつものように冷静で……」

「綺麗っ!? う、うむ。アレックスにそう言って貰えるように、淑女として振る舞おう」


 ネーヴが一人で納得し、冷気が消えていったので、ひとまず胸を撫で下ろしていると、今度はユーリとレヴィアが口を開く。


「パパー! 窓の外に珍しい精霊さんがいるよー!」

「……こっちを見てる。見たものを何処かへ飛ばす魔法」


 二人の言葉で窓に目をやるが、俺には雪が降っているようにしかみえない。

 とはいえ、この二人が言うのだから間違いないのだろう。


「スノーホワイト様っ! お逃げくださいっ! スノーウィが、雪の精霊を使役して偵察を行っているのです!」


 今度は男たちが叫びだし……一体何がどうなっているんだ!?

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