第936話 エミーシ国

「アレックス。こっちだ」

「……ネーヴ。勝手に動き回って大丈夫なのか?」

「無論だ。自分の故郷へ里帰りしてきただけだからな。止められる理由などない」


 いや、その割に最初に居た女性は大事だと走り去って行ったのだが。

 これについては、レヴィアは興味なしで、ユーリはわからないと……うん。ここはネーヴを信じてついて行くしかないようだ。


「ネーヴ。ここは、どこなんだ?」

「王宮の地下だな。地下倉庫で海産物や農作物を管理しているから、交易を行う場所として都合が良いのだろう」

「なるほど」


 今は部屋を出て廊下を歩いているが、窓なども無いし、確かに地下に居るようだ。

 そのまま通路を進み、右へ左へと行くのだが……


「ネーヴ。今は何処へ向かっているんだ?」

「まずは我が兄スノーウィに会おうと思う。私は国から離れていたし、今の状況がわからないからな」

「だったら、尚更事前に連絡しておくべきでは……」

「む! 何となく歩いて来たが、それっぽい階段を見つけたぞ。上がってみよう」


 いや、これまでも道がわかっていた訳ではなかったのか。

 一応、ネーヴとこの国の関係について思い出しておくと、ここはエミーシ国という雪国で、第四魔族領にあるアレクサンダー王国……この名前もどうかと思うが……と友好国にある。

 ネーヴの兄スノーウィは、宰相という国を動かす立場に居るのだが、その前任の宰相がネーヴだ。

 ただ部下に裏切られ、呪いを掛けられた上に奴隷にされ……奴隷解放スキルで第四魔族領へくる事になった。

 なので、スノーウィの協力が得られないと、実はネーヴを敵視している者が再び近付いて来る可能性もあるので、気を付けなければ。

 ……まぁ何があっても守るつもりではあるが、種族差というか、スノーウィも強かったからな。

 スノーフェアリーという種族であるネーヴは人間の女性と同じくらいの体格なのだが、スノーウィは俺よりも遥かに大きいし。


「おぉ、アレックス! 正解だ! とりあえず地上に出たぞ」

「……何か白いのが落ちてきてる。埃?」

「これは雪だな。レヴィアは見た事が無いか?」


 ネーヴの説明でレヴィアが首を横に振るが、海中だと雪を見る機会は無さそうだよな。


「ユーリ知ってるよー! あのねー! 空気の中にある水分が冷えて固まって、氷になって降ってくるのー!」

「いや、違うぞ。雪は、雪の精霊が遊びに来ている時に具現化するのだ。つまり、今は大勢の雪の精霊が遊びに来ているのだ」

「……えー」


 ユーリとネーヴが雪の概念で意見が合わなかったようだが、土地によって伝承などは変わるからな。

 どちらが正しくて、どちらが間違っているとかではなく、どちらの考え方もある……という事で纏めておいた。

 とりあえず地上に出られたので、ネーヴが知っている場所へ向かう……と言い、更に歩いて行く。

 雪の中を歩くのは、俺は冷気耐性スキルがあるので問題無いし、ネーヴも平気なようだが、レヴィアとユーリが小さく震えている。


「ネーヴ。レヴィアとユーリが寒そうだ。一旦、何処かの建物に入れないだろうか」

「なるほど。では……よし、あそこにしよう」


 レヴィアとユーリを抱きしめながら、ネーヴが指し示す建物の中へ。

 中に入ると……スノーウィがいた。


「流石、ネーヴ。いきなり大当たりじゃないか。スノーウィが居るぞ」

「ん? アレックスよ。兄は何処にも居ないが?」

「え? 目の前に……ん? もしかして別人……なのか?」

「そうだな。兄とは似ていないな。それからアレックス……ここでは私の事はスノーホワイトと呼んでもらいたい」


 俺からすると、目の前にいる大男はスノーウィにしか見えないのだが、ネーヴからすると全く似ていないらしい。

 見分けポイントが難しいな。

 あと、言われるまで忘れてしまっていたが、ネーヴの国では呼び名と真名というのが別にあり、真名であるネーヴというのは他人に教えない文化だと言っていたな。

 という訳で、レヴィアとユーリにもスノーホワイトと呼ぶように言い、少し暖を取らせてもらう事にした。

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