第376話 取引

 少しすると、ナズナが戻って来て、


「アレックス様。ネーヴさんがお呼びです」


 ネーヴが呼んでいるというので、サンを降ろして二階へ。

 ちなみに、レヴィアは離れる気がないようで、強い力で俺に抱きつき続け、サンに勝ち誇ったような顔を向けている。

 いや、相手は子供だからな?


「こちらです」


 ナズナに言われて部屋に入ると、メイドさんたちが大勢居て、その中の何人かが俺に向かって飛びついて来た。


「なるほど。アレックスが近付くと、このように豹変してしまうのか」

「ネーヴ!? これは……」

「すまん。アレックスによる魅了効果というのがどれ程のものか、この目で確認しておこうと思って……うむ。せっかくだから、私も混ぜてもらおうか」

「……って、ネーヴも混ざるのかよっ! こら、レヴィアも便乗するなっ! あぁっ! ナズナまでっ!」


 それから、何かの気配を感じた! と言って一階に居たはずのカスミも混ざり、例のポーションを飲んでいない女性陣も混ざって……朝から何をしているんだ。

 結局、二階に居る全員を満足させ、各自の仕事に戻ってもらうと、


「カスミさーん。毒の植物の除去が終わったよー! うぅ……聖水の出し過ぎで少し痛いし、もう終わったのに、まだ聖水が漏れそうだし。これ、どうやったら尿意が収まるのー!?」


 階段の方からモニカの声が聞こえてきた。

 毒の葉を全て枯らしてくれたと言うので、労ってあげようと一階へ降りて行くと、


「ご主人様ぁーっ! いつお越しになったのですか? いえ、それより毒の植物を全て枯らしたので、頑張った私にご褒美を……ぉぉぉっ!?」


 突然モニカが床に聖水を撒き散らす。


「おい、モニカっ!? 何をしているんだっ!?」

「す、すみません! ご主人様に会えた事が嬉しくて、嬉ショ……嬉聖水がっ!」


 いや、嬉聖水って何なんだよ。

 とりあえずモニカを家の外へ出し、二階に居るメイドさんたちに声を掛け……いや、続きじゃないからっ!


「なるほど。村長様は、こっちのご趣味が……」

「違うぞっ!? いや、こんな事を頼んで申し訳ないが、掃除をお願いしたいんだ」

「畏まりました。お掃除ですね?」

「床の掃除だよっ!」


 あと村長は俺じゃなくてネーヴだからな?


「むっ!? ご、ご主人様! そのメイドの行動に、この匂い! もう朝の愛玩タイムは終わってしまったのですかっ!?」

「愛玩タイムって何だよ。あと、匂いはモニカが漏らした聖水だろ?」

「いえ、私の聖水は無色無臭です。直接飲まれても問題ありませんよっ!」


 いや飲まないって。

 そんなやり取りをしていると、


「ネーヴ村長代理。村長へお客様が来られてますが、どうしましょう?」


 メイドさんの一人が一階に降りて来ていたネーヴに判断を仰ぐ。

 ネーヴがメイドさんたちに、どのような話をしたのかはわからないが、どうやら先ずはネーヴに話を通すように指示してくれているようだ。


「アレックスに客人とは、どのような者だ?」

「いつものお茶屋さんですよー。普段は、奥の村長の部屋で商談されるのですが、お通ししても宜しいでしょうか?」


 メイドさんの言葉でネーヴと目が合う。

 ほぼ間違いなく闇ギルド関連の者だと思われるので、いつも通りに対応するように伝え、ネーヴと共に奥の部屋へ。

 俺とネーヴだけで大丈夫だとは思うが、レヴィアが離れてくれないのと、モニカが隣の部屋で待機すると言い、かなりの人手に。


「お兄さん。事前に売る予定の茶葉を用意してあるわよー。もちろん毒の葉は入れていないわよ」

「流石はカスミだな。助かるよ」

「ふふっ、夜にお礼をしてくれれば良いわよー」


 そう言って、カスミが大量の葉っぱが入った麻袋を置き、姿を消す。

 ちなみに、ナズナも何かあった時の為に潜むと言って姿を消し、サンゴはサンと別の部屋で待つそうだ。

 少しして、先ずは先程のメイドさんが部屋に入って来た。


「失礼します。お茶屋さんをお連れ致しました。後程、お飲み物をお持ち致しますね」


 メイドさんに続き、中肉中背の普通の男が入って来る。


「毎度ー! おはようござ……あれ? 村長さんは……?」

「こほん。昨日より、こちらの御方が村長に就任されたのだ。そして、私が村長代理のネーヴだ。用件を聞こう」

「なるほど。それは、知らずに申し訳ない。いつも贔屓にさせていただいているんですが……早速、今週の茶葉を見せていただいても?」

「勿論。さぁ確認してもらおう」


 そう言って、ネーヴがカスミの持って来た毒の葉が入っていない茶葉だけの袋を渡す。

 さて……この男はどう出るかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る