第377話 母を心配するナズナ?
部屋の隅にあるテーブルへ着くと、男が茶葉の入った麻袋を開け、中身を確認していく。
じっくり茶葉を見て、匂いを嗅いだりしている。
暫くすると袋を閉め、重さを計り、何枚かの貨幣を置く。
「ありがとうございます。今週も良い茶葉でした。こちらが茶葉の買取代金となります」
ふむ。表向きの茶葉の買取だが、これは妥当……なのだろう。
茶葉の買取価格など分からないが、目の前の男は真剣に調べていたように思えたし。
それから、タイミングを見計らったかのようにメイドさんが飲み物を運んで来た。
おそらく、茶葉の確認を邪魔しないようにと、作業が終わるのを待っていたのだろう。
出されたのも、お茶の類ではなく、無味無臭な冷水だしな。
それから、メイドさんが退室した所で、男が先程の茶葉の買取とは別に、遥かに多い金をテーブルへ置く。
「こちらは、前回の運搬代行したものの代金です。今回はありますか?」
「運搬代行?」
「はい。前の村長さんから聞いていませんか? 私も中身は知らないのですが、毎回茶葉とは別の袋を街へ運んで欲しいと言われており、引き渡し先からこの代金を預かっています。で、俺は運搬手数料だけいただいているんですよ」
なるほど。おそらく、この男は本当に茶葉の仕入れに来ており、毒の葉は運ばされているだけだろう。
この男の跡をつけても、何人もの人を介していそうだし、面倒だな。
……いっそ、闇ギルドか六合教か、もしくはその両方にここへ来てもらうか。
「もう一つの袋は前回が最後で、今後はしない方針にしたんだ」
「そうですか。わかりました。では、今後とも宜しくお願いします」
「こちらこそ、宜しく頼む」
しっかり観察していたが、今の発言で男が動揺したようには見えなかった。
余程ポーカーフェイスが得意ならば俺にもわからないが、この男は毒の葉の事は本当に知らないと考えられる。
「では、失礼します」
深々と礼をして男が家を出たところで、
「お兄さん。一応、跡をつけようか?」
「大丈夫なのか?」
「ふふん。カスミちゃんよ? 楽勝よー」
「わかった。無理に追わなくて良いからな? 今後、毒の葉を送らないと伝えた訳だし、おそらく闇ギルドや六合教の方から何かしてくるだろうし」
「おっけー。何人も人を介して面倒になったら追跡を止めるわ」
そう言って、カスミが姿を消す。
ナズナなら止めたが、カスミなら大丈夫だろう。
夜は色々と大変だが、なんだかんだ言って優秀だからな。
「お母さん、大丈夫かな……」
ポツリとナズナが呟き、親の事を心配しているんだなと思ったら、
「アレックス様のを知ってしまったのに、我慢出来るのかなー?」
何の心配をしているんだよっ!
ナズナはカスミの心配をしていたんじゃないのかっ!?
「カスミ殿なら大丈夫だろう。ナズナ殿はご主人様のを昨日知ったばかりらしいから、もっとしたいかもしれないが、カスミ殿は何度もご主人様のを味わっているし、一日、二日くらいなら……いや、我慢出来ないな」
「だよねー。という訳で、アレックスさん、お母さんの分も私が頑張りますねっ!」
あと、ネーヴも混ざろうとするなよ。
「いや、しない……というか、さっきしたばかりだろ」
「あぁっ! そうだ、それですっ! ご主人様、酷いですっ! 私が聖水で毒の葉を枯らしている間に終えてしまうなんてっ! もう一回! もう一回しましょうっ!」
「アレックスー! レヴィアたんもーっ!」
モニカとレヴィアが抱きついてきたのだが……とりあえずモニカは、聖水を垂れ流すのを止めてくれ。
「アレックス、お待たせー! ウチ、頑張ったんよ。アレックスの為に、物凄く急いで来たんよ」
モニカたちとバタバタしているうちに、ヴァレーリエが人形たちを連れてやって来た。
先ずはメイリンが人選を行うと言っていたから、その後に出発して、もう着いたというのは、かなり飛ばして来たのだと思う。
ただ、どちらかというとヴァレーリエの走りについて来た人形たちが頑張ったのだと思うが。
「流石は、私が鍛えた者たちだ! よくヴァレーリエ殿の走りについて、ここまでやって来たな。さて、早速任務を割り当てよう」
ネーヴが着いたばかりの人形たちにすぐ仕事を振るが、少しくらい休憩を……って、人形は不要なのか。
改めてメイリンのスキルが凄いと思ったのだが……その人形たちの最初の仕事が、モニカが漏らした聖水の掃除になってしまった。
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