第810話 辿り着いた場所

「王女さ……本当にダメだっ!」

「何故、隠そうとする。私が良質の聖水をねだったからか? だが、このような旨いもの……分けてくれても良いではないか」

「アレックスー! マリもー! マリもー!」


 マリーナが背中から降りて、王女の横に座り、二人で……いや、ダメ過ぎる!


「お、王女とマリーナも、そろそろトロッコが国境に着くから……」

「ヤダー! えーい!」

「おっと。我も混ざるのじゃ」


 マリーナが触手で俺の下半身を覆い始め、背中にいるミオがその中に滑り込む。

 更に、私も……と、モニーが続こうとしたので、何とか身体を抱き締め、止める事に成功した。


「ふぉーっ! 父上に抱きしめていただけるなんて」

「いや、抱っこやおんぶなら、いつもしているだろ?」

「ですが、だいたい誰かと一緒になので、こうして私だけを抱き締めていただけるのは、嬉しいものなのです」


 とりあえずモニーを左腕で抱きかかえ、右手はトロッコを漕ぐ。

 ただ、下半身は身動きが取れず、王女たちを止める事も出来ないまま、国境へ。


「そこのトロッコの男よ。その下半身の青い膨らみは何だ?」

「……す、スカートだ」

「…………まぁ本部からお前は自由に行き来させるようにと通達が出ているから、止めはしない。だが、我が国で変な事をしたら、投獄するからな?」


 すまん。現在進行形で変な事になっているんだ。

 とりあえず、トロッコを止めたら本格的にヤバい事になりそうなので、とにかく先を急ぐ事に。

 何度か国境を越え、その都度苦しい言い訳をして、ようやく終点……って、ここは何処だ?

 とりあえず先を急ぎ、国境も切り抜ける事ばかり考えていたら、見覚えのない場所に来てしまったんだが。


「あ、おとーん! やっと来てくれたー! その青いのが噂のマリちゃんスカートやね?」

「レミ!? どうして、ここに?」

「どうして……って、ウチは第二魔族領で待機って言うてたやん」

「いや、それはわかっているのだが……ここが第二魔族領なのか?」


 レミが出てきた場所もそうだが、何も無かった第二魔族領に、いくつかの家が建っているんだが。


「あ、そっか。えっとな、ウチがここで待ってたら白虎はんがやって来て、少しでも過ごし易い方がえぇやろって、一瞬で家を作ってくれてん」

「なるほど。この鉄っぽい家は、白虎の力か」

「おとんも……っていうか、マリーナちゃんもスカートを解除して、家へおいでーや。そしたら、ウチも材料集めになるし、広い場所の方がえぇと思うで」


 レミの言葉でマリーナが触手を解除したのだが、中に居た三人で同時に……いや、本当にやめないか?


「そうそう。おとんに貰った、凄い水があるやろ? あれでちょっと薬を作ってみてん。効果の程を見てくれへん?」

「それは、俺も是非見てみたいのだが、この状況で……」

「分身したらえーやん。そしたら、みんな幸せになるやん」

「いや、みんな幸せとは限らないと思うのだが」

「えぇっ!? おとんはウチの事が嫌いなん!? 可愛い娘が、おとんに成果を見て欲しいって言うてんのに、おとんは娘のお願いよりも、変な棒を舐めてもらう方が……」

「わかった。わかったって」


 そんな言い方をされては分身するしかなく、小屋の中へ俺の分身を出す。


「アレックスよ。分身が足りぬのじゃ」

「ほほう。アレックスは増える事が出来るのか。これで、さっきミオ殿が言っていた事が出来るな」

「マリもするー!」


 いや、何をする気なんだよ。

 とはいえ、レミから先程の言い方をされるのも辛いので、二体の分身を追加し、小屋の中へ。


「では私も……」

「いや、モニーは俺と一緒に行くぞ」

「父上……私も向こうに混ざりたいです」

「ほら、抱っこしてやるから」


 レミに案内され……というか、レミも抱っこする事になり、三人で第二魔族領の中へ。


「あれ? そういえば、レミは第二魔族領の中へ入れるようになったのか?」

「せやねん。多分やけど、おとんが魔族を倒してくれたからとちゃうかなー? メイリン母さんのスキルと干渉し合うというか、相性が悪かったと思うねん」


 俺は魔力的な事はわからないが、ひとまず普通に行動出来るようになったのは良かったな。

 ミオやマリーナに分身がいろいろされているが、いつものごとく結衣に助けてもらいながら、第二魔族領の奥へ移動した。

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