第809話 何も知らないイベールの王女
ミオ、マリーナ、モニーの三人と共に、イベール国の王女を送り届ける事になり、トロッコの線路に向かって歩いて行く。
「そうだ。俺は中位の治癒魔法が使えるんですが、何処か怪我をしていたり、痛んだりする箇所はありませんか?」
「なんと、それは是非頼みたい。というのも、何か魔法を使ったのか、夜から朝まで眠らされていたようなのだ。そして、何をされたのか分からぬが、ずっと股間と顎が痛むのだ」
「えっ……」
「何とか耐えておるが、実は歩くのも辛くてな」
イベールの女王を攫ったのは二人の男で、魔法で眠らされていたと言うし……もしかしたら、最悪の事態かもしれない。
聞くところによると、イベールの王女は成人したばかりで、ニナと同じくらいの背丈だと言うのに、何て奴らだ!
ひとまず、抱っこしていたマリーナに、モニーと同じように背中へ捕まってもらい、イベールの王女を抱きかかえて進む事にした。
「失礼します」
「ふぉっ!? こ、これは、歩くのが辛い私にはありがたいが、少々恥ずかしいな」
「トロッコに乗れば、座っていられますので、そこまで我慢してください」
歩きながら王女に治癒魔法を使うと、耐えていた痛みから解放され、攫われたという事実に直面したからだろうか。
それとも、何をされたか分からぬ恐怖からか、王女がギュッと抱きついてくる。
「すまぬ。暫くこのままでいさせてくれぬだろうか。何故かはわからぬが、アレックスに触れていると、落ち着くのだ」
やはり、精神的に参っているのだろう。
毅然としていたイベールの王女だが、俺の首に回した腕の力がどんどん強くなっていき、変な依頼をしてくる。
「申し訳ないのだが、このままお腹の辺りを撫でてくれないだろうか。何か飲まされたのか、実はお腹も変な感じがするのだ」
「えっと……この辺りですか?」
「いや、もう少し下を……もっと下だ」
「……こ、この辺り?」
「もう少し下でも良いが……すまぬが、その辺りを撫で続けて欲しい」
いやあの、真剣な様子だから応じるが、結構際どい場所なのだが。
「アレックスー。マリも、それがいいなー」
「マリはお腹が痛かったりしないだろ?」
「そうだけどー、マリもして欲しいもん」
耳元のマリーナを宥めながら、そのまま歩き、ようやくトロッコへ。
王女をトロッコに座らせ、危ないのでマリーナとモニーにも降りてもらい、念の為ミオに結界を張ってもらった。
後はトロッコを漕ぎ続けるだけなのだが……
「あの、王女様?」
「む? ……す、すまぬ。どういう訳か、アレックスの香りが心地良いというか、もっと嗅ぎたくなってしまうのだ」
「えぇ……危ないですよ?」
「頼む。離れると、何故か不安が過るのだ」
どういう訳か、トロッコを漕ぐ俺に、王女が抱きついてきた。しかも、正面から。
離れてくれそうにないし……仕方ない。少し速度は落ちるが、横を向いて片手で漕ぐか。
とりあえず、普段よりは遅いが、それなりの速度でトロッコが動きだすと、倒れないようにと王女が顔を埋め……って、王女はそういう知識がないのか!? とんでもない場所に顔を埋めているんだが。
「ミオ……」
アイコンタクトと共に、小声でミオに助けを求めると、すぐに察してやって来てくれる。
……って、マリーナみたいに背中登ってきた?
俺の言いたい事を察してくれたのではなかったのか?
「ふふふ、アレックスよ。お主があんな所を優しく撫でれば、どうなるかは明らかなのじゃ。焦らさず、最後までしてやるのじゃ」
「ミオ!? 何を言っているんだ!?」
「ただの事実なのじゃ。それに、このドワーフの中には既にアレックスの魔力が……こほん。ほれ、我も手伝うのじゃ」
ミオがよく分からない事を言いながら、俺のズボンを……下げたっ!?
「こ、この香りはっ!? 何かはわからないが、何故か香りは知っている! ……今朝、目覚めた時に口の中に残り香があったのは、これかっ!」
「お、王女様……何を!?」
「……こ、この味! やはり私はこれを知っている! アレックスよ。教えてくれ! これは一体何なのだ!? どうして、舌が止まらぬのだ!?」
王女がぺろぺろ……絶対にダメだぁぁぁっ!
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