第808話 お手柄フョークラ

「ニナ。軽く行って攫われたドワーフを助けて来るから、少し待っていてくれ」

「うんっ! じゃあニナは家で待ってるねー!」

「婿殿。ニナは随分と信頼しているようじゃが、くれぐれも無理はしないでくれ」


 翌朝。分身を全て解除し、ニナやご両親に挨拶して家を出る。

 ちなみに、レヴィアには事前に話しておかないと怒りそうだと思い、逢瀬スキルで夜の間に説明済みだ。

 ……まぁその、説明で終わらなかったのと、朝起きたら俺の本体の周りが大変な事になっていたが。


「アレックス殿。昨日はニナ殿のご両親に挨拶をすると言っていなかっただろうか」

「あぁ、その通りだが……モニカ、どうかしたのか?」

「いや、何か私だけ除け者に……な、何でもない」


 何かモニカが不満そうにしているが、昨晩はちゃんと宿の部屋を確認しながら分身を送り込んだ。

 間違ってもモニカの部屋に分身を送り込んだりはしていないはずなのだが、どうして少し不機嫌なのだろうか。

 そんなモニカを他所に、マリーナが抱っこを求めてきたので応じてあげると、周囲を見渡し……


「アレックスー。フョークラが居ないよー」

「あ……そうだ。フョークラを迎えに行かないとな」

「ふむ。あやつは変な事をしでかしておらねば良いのじゃが」


 マリーナに言われ、フョークラを迎えに行く為、先ずは地上へ移動する事に。

 ミオは変な心配をしているけど、分身を消してもトンネルに戻って来ていないし、普通に眠っているのではないだろうか。

 そう考えながら地上でフョークラを探していると、


「……っ! や、やめてくれっ! 気持ち悪いっ!」

「喋るなっ! 息が……誰か助けてくれぇぇぇっ!」


 人間と思われる二人の男性が蔓で縛られ、互いの股間に顔を埋めていた。

 これは助けてやるべき……何だよな?


「あっ! アレックス様! ダメです! そいつらは人攫いです!」

「えぇっ!? フョークラ、何があったんだ!?」


 蔓を外してやろうと思ったところで、木の上からフョークラが降りてきて、俺を止める。

 昨晩何があったのかを説明してもらい……フョークラを褒める事に。


「お手柄だ、フョークラ。俺たちは、今からこの人攫いたちの拠点へ乗り込むつもりだったんだ」

「それは良かったです。では、先程お話しした、被害者の女性を下ろしますね」

「あぁ、頼む」


 そう言って、フォークラが精霊魔法を使って蔓を操り、ゆっくりと女の子が下ろされてきた。

 ドワーフ族の女の子……というか、女性だが、どこかで見た事があるな。

 降りて来た女性が不安そうに周囲を見渡して俺を見ると、


「お、お、お……お主は、アレックスではないかっ! という事は、このエルフは、お主の仲間か!」

「俺はアレックスで、フョークラは俺の仲間だが……ん? あぁっ! イベールの王女様!?」

「その通りだ! 昨晩、私を誘拐犯から助けた事について、誠に感謝する。すまないが、我が国へ送ってくれないだろうか」


 余程不安だったのか、第二魔族領の隣の国イベールの王女が俺に抱きついてきた。

 しかし、ドワーフ族の王女を攫うとは……王女であれば、警備もしっかりしているだろうし、フョークラが捕まえた男たちはかなり腕があるという事なのだろうか。


「海の向こうに乗り込まないといけないが、被害者をこのままという訳にもいかないか。ひとまず、トロッコを使えばすぐに行けるだろうし、俺が大急ぎで送り届けて来るから、皆は地下で待っていて欲しい」

「待つのじゃ。第二魔族領の近くに行くのであれば、我も連れて行って欲しいのじゃ。白虎に会うのじゃ」

「待ってください! 父上、私は父上の安否をメイリン母上に伝える役目を持っております。私もお願い致します」


 イベールの王女を送り届けるのに、ミオとモニーもついてくると言うと、


「アレックスー! マリもー! マリも一緒ー!」

「マリーナは……幼いし、仕方がないか」


 マリーナが抱きついてくる。

 今朝からマリーナがずっと甘えて来るのだが……昨晩のアレのせいなんだろうな。


「アレックス様! 私も! 私も行きたいですっ!」

「いや、本当にすぐ戻って来るから。あと、フョークラはこの男を捕まえているんだから、離れるとマズいだろ」

「そんなぁぁぁっ!」


 ひとまず、フョークラやモニカ、ノーラにグレイスを残し、全速力でトロッコを漕ぐ事にした。

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