第703話 虎耳族の村を襲った者

「ザシャ、シアーシャ。どういう事だ?」

「うむ。我も聞きたいのじゃ。魔力の残滓など感じないのじゃ」


 村を襲ったのは獣人族ではないと言うザシャとシアーシャに対し、俺とミオが話を聞く。

 俺はリディアやレヴィアみたいに魔力を感知したり、魔法に詳しい訳ではないけど、ミオは魔法にかなり詳しいからな。

 そのミオが感知出来なかったというのが気になる。


「私とシアーシャで話した結論を言うと、この村を襲ったのは黒竜……ブラックドラゴンだと思う」

「ブラックドラゴンじゃと!? それが本当だとしたら、虎耳族では相手にならぬと思うが……だが、どうしてブラックドラゴンだと思うのじゃ?」


 ザシャからブラックドラゴンの名を聞いてミオが驚くが……ドラゴンが相手だと、確かに厳しいだろう。

 身近なドラゴンと言えば、レッドドラゴンのヴァレーリエだが、彼女の強さは十二分に知っている。

 だが、以前にシアーシャからレッドドラゴンよりもブラックドラゴンの方が強い……という話を聞いているので、その強さは推して知るべきだろう。


「どうしてブラックドラゴンか……という話だけど、普通の魔法ではない、闇の……負の怨念っていうのかな。そういうのを感じるんだ。おそらくこいつは、単独犯――一体の仕業だな」

「あと、私が過去にブラックドラゴンを見た事があるんですの。そのため、魔力の波長を知っているんですの」

「むぅ……闇の魔力については、ザシャの方が詳しいのじゃ。承知したのじゃ」


 ザシャとシアーシャの説明で、ミオは理解出来たらしい。

 もちろん俺は……うん。よくわからないな。

 こっそりシアーシャに聞いてみると、それぞれの体内に有している魔力に波長というものがあり、それが種族毎にある程度パターンが決まっていて……よし。難しいので、機会があれば今度ミオやリディアに教えてもらおう。


「虎耳族の村がブラックドラゴンに襲われたというのはわかった。だが、豹耳族や豚耳族の村から女性が消えたというのは、ブラックドラゴンには直接関係ないと思って良いのだろうか」

「おそらく……としか言えぬが。我としては、特定の条件を満たした者――ある種族の女性だけが忽然と姿を消すというのは、太陰の力だと思うのじゃ」

「そうか。では、一旦ブラックドラゴンの事については、注意はするものの、白虎救助を優先するという事で良いだろうか」


 ブラックドラゴンが虎耳族の村を襲った理由まではわからないが、この村を襲ったのも最近という話ではなさそうだし、おそらくこの辺りから既に離れているのだろう。

 向こうが俺たちを襲って来るなら話は変わるが、ひとまず積極的に探しに行く必要はないのではないだろうか。


「そう……ですの。私もアレックスさんの意見に賛成ですの。一応、魔力の反応があるにはあるのですが、かなり遠くですし、遭遇する事はないかと」


 シアーシャが俺の意見に賛同し、ミオも頷いてくれた。

 ユーリとディアナ、ファビオラについては、完全に俺の考えに従うとの事だ。

 そんな中、ザシャが眉をひそめる。


「うーん。私もアレックスとシアーシャと同意見ではあるんだけど……私は、何となくブラックドラゴンも今回の事に絡んでいるんじゃないかなって思うんだけど」

「ふむ。何か思うところがあるのか?」

「いや、ただの勘なんだけど、ブラックドラゴン程の種族に負の怨念を抱かせる程の相手となると、その相手はかなり限られると思うんだ」

「なるほど。ドラゴンよりも強い相手となると、魔族とか神族とかだろうか」

「そうだね。ただ神族はよく知らないけど、魔族はピンキリなんだ。私みたいに、人間族のアレックスに敵わない魔族もいれば、神獣を抑える程の力を持つ魔族も居るからさ」

「……四天王たちか」


 そう言うと、ザシャが小さく頷く。

 ちなみに、ザシャは風の四天王の配下で第一魔族領にずっと居たため、管轄が違う西大陸の魔族領や四天王の事は全く知らないらしい。


「……シアーシャ。ブラックドラゴンは、どっちの方角に居るんだ?」

「正確ではなく、あくまでおおよそですが……南ですの」


 バンシーが言っていた第二魔族領の場所も南だ。

 ……やはりザシャの言う通り、何か繋がりがあるのだろうか。

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