第702話 虎耳族の村

 豹耳族の村を出て、教えてもらった方角に――南西に向かって歩いて行く。

 何でも虎耳族は、深い森の中に村を作っていたらしい。

 とはいえノーラの実家やフェリーチェの家ように、木の上に家を作る訳ではないので、普通に歩いて行けば見つかるそうだ。


「パパー! あれじゃないかなー?」

「ん……確かに、木々の間に家みたいなものがあるな。ユーリ、ありがとう」

「えへへー」


 森の中なので、空を飛ばず俺におんぶされているユーリが、何かを見つけたので早速行ってみる。

 だが、豹耳族の者たちが言っていた通りで、廃墟のようだ。


「ひとまず、何か白虎や魔族領に関する手掛かりが無いか、手分けして探してみよう。ただ、いくらパラディンの防御スキルを使っているとは言っても、一人での行動は禁止だ。必ず複数で行動するように」


 という訳で、俺とユーリとディアナ。ザシャとシアーシャ。モニカとグレイス。ミオとファビオラの四つのグループに分かれ、村の中を調べてみる。


「うーん。にーに……村が壊れたのは結構前って感じがするよー」

「そうだな。これでは何も出てこないか。虎耳族は白虎に近しい獣人族らしいし、何かあるかと思ったんだがな」

「でも、謎がいっぱいなんだよね。いきなり村を捨てたり、ウチの村を襲ったり……どうしてそんな事をしたんだろう」


 虎耳族が豹耳族を襲った理由か。

 確か虎耳族は、豹耳族から食料を奪い、女性を連れ去ったんだったな。

 女性はさておき、食料を奪ったという事は、この村に食料が無かったと考えられる。

 この村も何者かによって襲撃され、生きる為に近くの豹耳族の村を襲った……という事なのか?

 そんな事を考えていると、少し離れた場所から、モニカに呼ばれたので、ユーリたちを連れて行ってみる。


「ご主人様ー!」

「どうしたんだ? モニカ」

「はい。普通に探していては埒が明かないので、このモニカにとても良い案があります」

「どんな案なんだ?」

「ご主人様に分身を出していただいて、一緒に探……あぁっ! 最後まで聞いてくださいっ! 豹耳族の村の時のように、穴を掘る指示と、その穴に挿れる指示をしていただければ……ご主人様ぁぁぁっ!」


 モニカの案を無かった事にして、元の場所の探索に戻る。


「にーに。モニカの案はダメだの? ウチも、皆で探す方が良い気がするよー?」

「いや、分身を大量に出すと、細かい指示が出来なかったり、出した指示を変に解釈して想定していない行動をしたりするようなんだ。だから、豹耳族の村でも……げふんげふん。とりあえず、手掛かりを探すっていう作業には向かないんだよ」

「そうなんだー。残念。ウチも、モニカたちがしていた事を、やってみたかったのにー」


 うん。ディアナに悪い影響が出ている気がするな。

 どうしても分身を使わなければならない事もあるけど、使い方は本当に気を付けないと。

 再びボロボロの家の中を調べて居ると、今度はミオに呼ばれた。

 若干嫌な予感がしつつも、ユーリたちを連れてミオとファビオラがいる、壊れた柵のところへ。


「アレックスよ。これを見るのじゃ」

「これは……?」

「鋭い爪の跡なのじゃ。村を囲っていたと思われる柵を外側から破壊しているようなのじゃ」


 すまん、ミオ。ちゃんと調べていてくれたんだな。

 心の中で謝りながら、ミオの見つけた古い傷跡を見ると、確かに外から内に向かって同じ様な切り口で複数個所が斬れているように見える。


「これはつまり……虎耳族も何者かに襲われたという事か?」

「可能性はあるのじゃ。ただ、この辺りは様々な獣人族が住んでいるようなのじゃ。この傷が、虎の獣人ものなのか、熊の獣人のものなのか、それとも他のものなのか……見当もつかぬのじゃ」


 ミオは他の獣人族が虎耳族を襲ったと考えているようだ。

 だが俺には、これが獣人族の付けた跡なのか、それとも普通の魔物や野獣が付けたものなのかが判断出来ない。


「ファビオラは、この傷をどう思う?」

「そうですね。この柵に使われていた木がとても太くて硬いので、それを爪で切り裂く事が出来るとなると、かなり力のある獣人族だと思われます。虎耳族に獅子耳族、熊耳族に狼耳族とか」


 やっぱり獣人族なのか? と思っていると、


「いや、これは違うね。獣人族じゃないよ」

「えぇ。アレックスさん。僅かに……ほんの僅かに、魔力の残滓を感じます」


 ザシャとシアーシャがやって来た。

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