第704話 久々の帰還

 偶然かどうかは分からないが、目的地とブラックドラゴンの居場所が同じ方角なので、ひとまず南へ。

 もはや空を見る事さえ出来なくなってしまった深い森の中を進んでいると、突然開けた場所が現れる。


「湖だっ!」


 久々に見た空は既に暗く……森の木々が生い茂っていると思っていたのだが、単に日が沈んでいるだけだった。


「グレイス。船を出してくれないか」

「船……ですか? この湖はかなり小さいので、出す必要もないと思いますが……出しますね?」


 グレイスが空間収納から船を出し、湖の上へ。

 ニナとノーラが作ってくれて、二つも大陸を渡った船だけど、かなりボロボロになっている。

 そんな船に乗り込み、ユーリからメイリン経由で連絡してもらうと……少しして、景色が大きく変わった。


「アレックスさん! お帰りなさいっ!」

「……アレックス。帰ってくるのが遅い。レヴィアたん、凄く待った」

「その通りだ。まったく、こんなに美人の妻を待たせておって」


 天后の力で船をアマゾネスの村に転移させてもらった直後、リディア、レヴィア、サマンサがそれぞれ抱きついてくる。


「にーに。こ、ここは?」

「あー、北大陸にある村の一つだ。水の上でしか使えないが、そこにいる天后の力で船を移動させられるんだ」

「凄ーい! ウチ、西大陸から初めて外に出たー! ……大陸を出たっていう実感はあんまりないけど」


 始めてここに来たディアナが周囲を見渡し、キョロキョロしてるので、慌てて俺も周囲を見渡す。

 ……良かった。以前、天后のスキルで呼ばれたら全員全裸だった……という事もあったのだが、今回は服を脱いでいる者は居ないな。

 いや、一人だけ……何故かモニカだけが全裸だが、ある意味いつも通りなのでディアナも気にしている様子は無さそうだ。

 しかし、今日は何か変な緊張感がアマゾネスの女性たちにあるような気がする。

 一体どうしたのだろうか……と思っていたのだが、すぐに理由が分かった。


「アレックス! 待っていたんよ」


 アマゾネスの村の奥から、ヴァレーリエがゆっくりと俺に向かって歩いてくる。

 そのヴァレーリエが、怒気を隠そうともせず、むしろ周囲に撒き散らしているせいで、女性陣が萎縮しているようだ。


「ヴァレーリエ。どうしてここに? 君には第一魔族領の警備を任せたはずだが」

「わかっているんよ。だけど、メイリンの人形たちから話を聞いて、アレックスがここへ来るだろうと思って文字通り飛んで来たんよ」


 俺の前に来ても、ヴァレーリエが怒気を抑えずにジッと俺の目を見つめてくる。

 ヴァレーリエのこの怒りは俺に向けられたものなのか?

 ……いや、そんな感じではない。

 そもそもヴァレーリエがこれだけ怒っているなら、その相手を前にしたら即座に手を出すだろうし。


「アレックス。ウチはもう我慢出来ないんよ。ウチを……ウチを連れて行って!」

「ん? 連れて行って……って、どこに?」

「西大陸よ。居るんでしょ? 奴が……ウチの家族や仲間を殺した、ブラックドラゴンが」


 そう言った瞬間、ヴァレーリエの怒りで周囲が発火し、リディアやレヴィアが消化活動を始めた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! ヴァレーリエ。何の話だ!? あと、少し感情を抑えてくれ。村が火事になる」

「無理なんよ! 今まで、アレックスと子供を作って、レッドドラゴンを増やす事だけを考えていたけど、家族の仇の居場所が分かったと聞いて、ジッとしていられないんよ!」


 そう言って、ヴァレーリエが俺の奴隷解放スキルで救出される前の事を話しだす。


「……という訳なんよ」


 ヴァレーリエによると、ある日突然ブラックドラゴンがレッドドラゴンの棲む村を襲ってきたらしい。

 ヴァレーリエはおつかいで村を離れていたから難を逃れたものの、戻ってきた時には村がボロボロで、生存者が居なかったと。

 その時、村を襲ったと自ら吐露するブラックドラゴンに襲われ、戦ったものの、あっさり負けてしまったのだとか。


「アイツが、どうしてウチだけを殺さずに奴隷にしたのかはわからないんよ。でも、村を襲ったアイツはウチが自分の手で必ず殺すんよ!」

「なるほど……だが、そのブラックドラゴンが、シアーシャが発見してるブラックドラゴンと同じかはわからないぞ?」

「同じなんよ。ブラックドラゴンは、レッドドラゴンのウチと同じで、そいつが最後の一体。そいつを殺して、ブラックドラゴンを根絶やしにするんよ!」


 怒りに震えるヴァレーリエが、またもや怒気を強め……消火活動に天后も加わる事になってしまった。

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