第322話 幼女に甘いアレックス

「うん。確かに私は竜人族。海竜種って言って、シードラゴンに変身出来るよ。……ねぇ、そんな事よりアレックスぅー」

「シードラゴン!? レヴィア……レヴィアたん!? 何だろう……あなた、その女の子を見ていると、変な感じがしてくるの。あなた、少しさすってくださらない?」


 川の中からラヴィニアが呼ぶので、行ってさすってあげようとすると……って、どうして俺の手を取って、胸に押し付けるんだよっ!

 こういう場合、普通は背中だろっ!?


「アレックス、ズルいっ! 私の胸も触ってよー!」

「いや、レヴィアは胸が……じゃなくて、十分元気だろ」

「じゃあ、私にも飲ませてよーっ! ズルいズルいズルいーっ!」


 レヴィアが駄々っ子のように抱きついてきては、変な所を触ろうとしてくるので……どうにかしてくれと、ヴァレーリエに視線を送ると、


「ウチも飲みたいんよ! 早速……」

「いやヴァレーリエは、ついさっきまでしてただろ」

「そっちの赤毛の女性は……竜人族!? じゃあ、やっぱり私もーっ!」


 うん、余計に酷くなった。

 どうやら俺の人選ミスらしい。


「レヴィア。悪いが俺たちは、今から海に現れたっていう悪魔を倒しに行くんだ」

「海に現れた悪魔? それってどんなの? もしかして、私の村を滅ぼした魔族の仲間なのかな!?」

「えっ!? ……あ、天涯孤独って、そういう事か。すまない」

「ん? あ、別にいいよ。もう今更どうにか出来る事じゃないもん。それよりアレックスと――運命の人に出会えた事の方が嬉しいもん」


 成人だというレヴィアが甘えて来るのは、幼くして親を亡くしてしまったからか。

 愛情に飢えているのかもしれないな。

 そんな事を思い、レヴィアを抱きしめてあげると、


「……やはりご主人様は幼女がお好きなのか……」

「そうだっ! カスミちゃんも幼女になる秘術を使わなきゃっ!」

「そっちの竜人族ばかりズルいんよ。……天涯孤独なのはウチも……」


 周りからモニカやヴァレーリエの声が聞こえて来たような気がしたが、レヴィアが大人しくなったので、今はこのまま抱きしめてあげよう。

 ……って、おい。大人しくなったと思ったら、こっそり俺のベルトを外して……


「レヴィア!? レヴィアーっ! やめるんだっ!」

「……んんーっ! これよっ! 私が求めた、この濃厚で芳醇な味と香りに、口いっぱいに広がる……というか入り切らない程の凄く大きなもの。これなのよっ!」


 一体どうやったのか、小さな口で俺のを咥えている。


「アレックス様ー! そういう事でしたら、私たちもお願いしまーす!」

「我も混ぜてもらうのじゃ。ほれほれ、アレックスの好きな幼子の姿なのじゃ」

「いや、今から戦闘だから! アーシアも、ミオも脱ぐなーっ!」


 昨晩の続きになりそうだったのを無理矢理止めたのだが、


「アレックス。一口だけ……一口だけ飲んだら、一旦は満足する! お願いだから、飲ませて欲しいの!」

「いや、だからな……」

「アレックス、お願いっ!」


 レヴィアに懇願され……仕方なく一度だけ出す事に。

 レヴィアにあまり無茶をさせたくないので、分身して有志の者に……って、全員が殺到するのかよ!


「……んっ。ありがとう、アレックス。とても美味しかった。アレックスは優しいのだな」

「……ご主人様は幼女に甘い……」

「……そういえばユーディット様もまだ幼い。幼女化する魔法とかないかなー」


 ようやくレヴィアが落ち着いて笑顔を見せてくれたが、モニカとアーシアからは羨ましそうな眼を向けられ……こほん。それはさておき、竜人族とはいえ幼いレヴィアを放置する訳にはいかず、一旦連れて行く事に。

 とはいえ、戦闘が始まったら遠くで待機してもらうつもりだが。

 まだ体調が良くないというラヴィニアの案内で川を下って行くと、仄かに潮の香りがしてきた。

 かなり歩いて、やっと海に着きそうなのだけど、


「アレックスー。結構先まで見て来たけど、悪魔どころか魔物の気配すらないよー?」


 様子を見に行ってくれていたアーシアたちが困惑した様子で戻って来た。


「え? そうなのか? ……逃げられたのか?」

「んー、というより、川や海にすら魔物の気配が一切無い事と、昨晩私たちが川の側でした事を考えると、もしかしたら夜の内に魔物を殲滅させちゃったんじゃないかなーって思ったりして」

「ん? アーシア。どういう事だ?」

「ユーディット様から聞いていると思うけど、私たち天使族は体内から出るとある液体が、聖水になるんだよ。だから、この人数で川へ一晩中聖水を垂れ流して居た訳だし、この辺りの水棲系の魔物が全滅してもおかしくないかなーって」


 昨日はカスミの料理を食べた後の記憶が無いのだが……アーシアの言葉通りになる何かがあったのだろう。

 しかし、第四魔族領を狙う悪魔が逃げたのか、倒す事が出来たのか、どっちなのかハッキリさせるにはどうすれば良いか考えていると、


「あ! ご主人様。そういえば昨日、悪魔を倒したからエクストラスキルを授けると言う声が聞こえてきたような気がします」

「モニカ。そういう大事な事はもっと早く言ってくれよ」

「あははは……す、すみません。という訳で、アーシア殿の言う通り悪魔は倒していますね。私の聖水で」


 まさかの無駄に歩いただけという結果になってしまった。

 しかし、モニカの聖水というか、アレを飲んで死んでしまった悪魔や魔物は可哀想だな。ちょっとだけ同情する。

 とりあえず今日は、天使族たちにも見てもらって、悪魔が居なくなっている事を確認しに来た……と思う事にしよう。

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