挿話70 困惑するギルド職員のタバサ

「……あれ? またなの?」

「どうかしたんですか? タバサ先輩」

「コレット……これ、どう思う?」

「んー、エラー……ですか? 魔力の注ぎ方に失敗したとか?」

「いや、そんな事をするのは貴女くらいでしょ」

「えぇー……新人イジメですかー? 泣いちゃいますよー?」


 新人いじめって。

 この子、ミスがやたらと多いのよね。

 だけど、若くて可愛いから冒険者たちが……特に男性が許しちゃうから成長しない。

 ウチのギルドでも数少ない、女性のみのパーティ……例えばステラさんのパーティでも担当させようかしら。


「……こほん。魔力は正しく注いでいるわよ。ただ、最近調子が悪いのよね」

「でも転送装置の調子が悪いって怖くないですか? 転送先の座標がずれて、石の中に転送されたりしたら……」

「流石にそれはないわよ。転送不可の座標が指定されたら、転送失敗ってなるだけだし」


 ただ、前に物凄く調子が悪くなって、魔法技師さんを呼んで直して貰ったばかりなのに。


「そう言えば、前に来ていた魔法技師さんが、転送先に強力な魔法陣があると、影響を受けるって言っていませんでしたっけ?」

「そんな事言っていたかしら? でも、この転送先……魔族領に魔法陣を使う人なんて居ないはずよ?」


 アレックスさんは神聖魔法を使うけど、魔法陣を必要とするような高度な魔法を使えないし、モニカさんも同じ。

 向こうのメンバーで魔法と言えばエリーちゃんだけど、魔法陣は使わないはずなのよね。

 残る可能性はフィーネちゃんのウィッチか。

 正直、ウィッチのジョブに関しては、全然情報がないから、あり得なくはないけど……転送装置に影響を与える程の魔法陣を作ったりするのかしら?

 それに何より、前に直してもらってから、ほんの数日しか経っていないのよね。


「とりあえず、急いで魔法技師さんを呼ばないとね。アレックスさんたちに食料が届けられなくなっちゃうし」

「あ! アレックスさんって、噂のS級冒険者さんですよね?」

「噂の? 何の噂なの?」

「え? その……絶倫王アレックスっていうか、ハーレム王っていうか、歳上お姉さんと幼馴染と歳下の後輩冒険者の三人を毎晩満足させている、色んな意味で凄い人が居るっていう……」

「ストップ! それ、誰から聞いたのよ」

「ベラさんっていう、女性パーティの弓使いの人です。この前、ご飯を食べに行った時、相席になって、色んな話になっちゃってー」


 くっ……人の口に戸は立てられないとは言うけど、私はステラさんにしか話してないのに。


「そ、その話……あんまり言っちゃダメよ?」

「え? でも、ベラさんが結構大きな声で話してましたよ? まぁ流石に個人名なんかは出してませんけど」


 ステラさんは、こういう事を他人に話すタイプじゃないし、グレイスさんは無口。

 けど、ベラさんがこんな事を大声で話してしまうタイプだったとは。

 私もまだまだね。


「そういえば、これもベラさんが言っていましたけど、その鬼畜王アレックスに、グレイスさんっていう方が興味を持たれているそうで……お近付きになりたいとかって」

「だ、ダメよっ! 絶対にダメ! 近付いたら妊娠しちゃうわよ! というか、鬼畜王……って、何よ」

「あはは、まぁ冗談だとは思いますよ? ……たぶん」


 そんな話をしている内に、コレットがサラッと自分の用事を終わらせて部屋を出て行く。

 よく喋りながら仕事が出来るわね。

 ……だからミスが多いんじゃないのかしら?

 一先ず私も自分の用事を済ませ、魔法技師さんを呼ぶ手続きを取ろうとしたところで、ギルドマスターに呼ばれてしまった。


「お呼びでしょうか?」

「あぁ。これを見てくれ。最近出たばかりの情報だ」

「えっと……第四魔族領のアレクサンダー王国の独立? へぇー、あんな所に国なんてあったんですね。知りませんでした」

「タバサ。それを出しているのは小さな雪国だが、正式な国の文章だ。あと、その第四魔族領の中の位置と国名、国王の名前についてどう思う?」

「初代国王の名前はアレ……って、えっ!? えぇぇぇっ!?」

「これは、第四魔族領に隣接するシーナ国が黙っていないだろう。あの国は表向きはともかく、裏は色々とヤバい。とりあえず当事者から正確な話を聞いてくれ。今すぐ。場合によっては、誰かを視察に送る必要も出てくる」

「わ、分かりましたっ!」


 あ、アレックスさん……独立国って、一体何をしているんですかぁぁぁっ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る