第388話 地雷原

 石の小屋をリディアとエリーの人形が水魔法で綺麗にする。

 まぁその、十二倍だから、水で一気に洗い流したりしないと大変……げふんげふん。

 何にせよ、小屋の中が綺麗になって良かった。

 あと、幼いメイド二人にはいろいろと知識が無く、とりあえず周りに合わせて脱いだだけらしくて、その意味も良く分かっていなかったと。

 ……た、助かったと思っておこう。目の前でいろいろ出てしまったが。


「しかし、ケイト。エリーの人形はいつ来て居たんだ?」

「孤児院に来る子供が予想より多いので、メイリンさんという方にお願いして、何人か応援を頼んだんです」

「という事は、人手が足りて居ないという事か?」

「今は、そうですね。食料なども壁の向こうからマミさんに運んで来てもらっていますし」


 なるほど。マミとジュリにかなり飛んで来てもらっていたのか。

 ウララドの街は人が多いし、ウラヤンカダの村のように壁の下を潜るトンネルを作ってしまうと、見つかったらマズい事になるからな。

 ウラヤンカダの村から、エリラドの街へ食料を運ぶルートが作れれば良いのだが。

 そんな事を考えながらも、先にやるべき事があるので、乗合馬車の停留所へ。


「では行ってくる。皆、孤児院の事は頼んだ」

「アレックス。こんな時間に出発するポン? もう少しゆっくりして行かれた方が良いと思うポン」

「いや、ウララドの街の商人ギルドの事を考えると、そうも言っていられなくてさ」


 既にかなり時間が経ってしまったが、シーナ国の王都へ行くと言ったのに、未だに到着していないからな。

 流石に今から出発して、今日到着するとは思っていないが、せめて途中の街か村まで進んでおきたい。


「じゃあ、お父さん。行こっか」


 流石に連絡が取れなくなるのはマズいので、エリラドの孤児院に居る人形を一人連れて行く事にしたのだが、いろいろと考慮した結果、エリーの人形エリスと共に乗合馬車へ。

 ちなみに、やはり今から王都ベイラドへ向かう馬車は無いらしく、途中の街までしか行けないが。


「いってきまーす!」


 エリスが見送りに来てくれたジュリたちに手を振り……皆が見えなくなったところで、俺の横にちょこんと座る。

 馬車がカタカタと街道を走り、幌から見える景色が流れていく。

 ……何と言うか、魔族領へ来てからこんなゆったりとした時間は久しぶりだな。


「ねぇ、お父さん」

「どうしたんだ?」

「エリーお母さんの何処が好きになったのー?」


 エリーをそのまま幼くしたエリスが、突然口を開いたかと思ったら、中々答え難い事を聞いてきた。

 あー……エリスは九歳くらいの頃のエリーか。

 あの頃のエリーは……うん。こういうお年頃だったかもしれない。


「そうだな。エリーとは幼い頃から一緒に居るからな。もう傍に居てくれる事を当たり前に感じるからかもな」

「えぇー。よく分からないよー。もっとあるでしょ? 気が合うとか、趣味が同じとか、優しさに惹かれたとか、手料理が美味しいとか、顔が好みとか」


 やけにぐいぐいくるな。

 さて、九歳の頃のエリーに何と答えるのが正解なのだろうか。


「お、幼馴染だからな」

「それ、さっきと同じだよー。ねぇねぇ、他にはー?」

「いや、そう言われてもな……」

「あ、じゃあ質問を変えて、エリーお母さんとメイリンお母さんに、ユーディットさんとボルシチさんの中で一番好きなのは?」

「それも答えられないな。全員俺の妻だし」

「えー、つまんなーい! 教えてよー!」


 そう言って、エリスがくっついてくるが……よく考えたら、人形たちの知識や体験は共有されるから、ここで答えた事がメイリンやエリーの耳に入る可能性が高いんだよな。

 絶対に答えてはいけないやつだ。

 ……最悪、魔族領の家が壊れてしまうかもしれないし。

 今更ながらに、地雷だらけの恐ろしい質問だという事に気付き、そこからはひたすらエリスの気を紛らわせる作戦に。


「エリス。ほら、あそこ。大きな木があるぞー。いやー、立派な木だなー」

「……お父さん?」


 うん、馬車から見える景色に、大したものが無い。

 この作戦は失敗だな。


「エリス、実は俺も古代魔法が使えるようになったんだ。初級だけだが」

「そうなんだ! お父さんは何が使えるのー?」

「そうだな。例えば泡魔法とか」

「え……微妙じゃない?」

「いやまぁ初級だからな」


 ウラヤンカダの村の住人かメイドさんから貰ったであろうスキルなのだが、泡で攻撃するというのは俺には無い発想だったので、良いと思っていたのだが……上級の古代魔法まで使えるエリスには不評だった。

 いつか、どこかで使ってみよう。

 ひそかにそんな事を考えながら、暫く馬車に揺られ……途中の街カレラドへ到着した。

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