第389話 カレラドの街の謎の女性

「さて、宿を探すか」

「ふふっ。お父さんとお泊まり、楽しみー!」


 カレラドの街に到着したものの、既に日が沈んでいるので宿探しを始めると、エリスが喜びだしたが……こ、これは旅行的な感じで楽しみという事だよな?

 若干の不安はあるものの、良さげな宿を見つけたので、受付へ。


「あの、親子……って、本当でしょうか?」

「ん? 本当だが?」

「娘さんが十歳前後に見えて、貴方がまだ二十歳前後に見えるのですが」


 あー、そういう事か。

 確かに親子には見えないと思う。

 だが、今から他人だと言ってもかえって怪しいよな。


「わかった。出直してくるよ」

「ま、待ってください! まさか人身売買……」

「そんな訳ないだろ!」


 思わず語尾を強め、宿を出る。

 うーん。これは毛布を買って、街の外で石の小屋を作る事になるかもしれないな。

 宿に泊まれそうにない事をエリスに謝ると、


「そっちの方が楽しそうだよね。一つの毛布に包まって、お父さんと温め合うの」


 何故か顔を輝かせる。

 よし、宿に泊まれなくなったとしても、毛布は最低でも二枚買おう。

 そんな事を考えながら、一先ずもう一軒あたってみる事に。


「あの、失礼ですが、お客様のが関係は?」

「兄妹だ」

「なるほど。随分と歳が離れておられますが、親御さんは?」

「兄である俺が親代わりをしている。何か問題でも?」

「あの、お二人が全く似ていないので……」


 うーん。リディアの人形やレヴィアに比べれば、エリスは妹に見えると思ったのだが、甘かったか。


「ふむ。別に一人部屋を二つでも構わないのだが」

「いえ、そういう問題ではないのですが……お困りのようですし、お部屋をご用意致しましょう」

「そうか。助かる」


 部屋が取れたので、次はゆっくり夕食にしようと、宿に併設している食堂兼酒場へ。

 適当に料理を注文したのだが……随分と遅いな。

 エリスが楽しそうに話し掛けてくるので、一緒に話していると、かなり待って、ようやく料理が来たと思ったのだが、


「貴様が人身売買の犯人か」


 いきなり大柄な男に囲まれる。


「何の事だ? 俺は妹と食事をしに来ただけだが?」

「妹だと? ウソを吐くな! お前が別の宿で親子だなどとほざいた事は分かっているんだよ!」

「あぁ、その事か。親子なのは本当だ。だが、その宿で信じて貰えなかったから、兄妹だと言った。それだけだ」


 ただ事実を述べただけなのだが、俺を囲んだ男たちは、話を聞かずに引き下がらない。


「バカを言うな! そんなに若いお前が父親な訳があるか!」

「そうは言っても、本当の話だからな」

「そうだよー! お父さんはお父さんだもん!」


 先程まで楽しそうに笑っていたエリスが怒り……って、魔法は使うなよ? 余計に面倒な事になる。

 興奮気味のエリスを宥め、どう切り抜けようかと考えていると、


「あら。見たところ、そっちのお兄さんは成人よね? だったら養子をとれば親子にはなれるんじゃないかしら」


 突然綺麗な女性が加勢してくれた。


「だ、だが、この男が養子を育てられる程に金があるように見えるか?」

「ふっ。貴方、知らないわよ? このお方は、アレクサンダー王国の国王アレックス様なのよ?」

「は? そんな国なんて聞いた事が……いや、それの国は極秘事項のはず。どうして知って……いや、それが本当なら大変だっ! い、一旦戻るぞっ!」


 謎の女性の言葉で男たちが逃げて行き、俺たちと謎の女性だけが残る。


「そこの店員さん。これは騒がせ賃よ。……貴方はここで何も見なかったし、聞かなかった。良いわね?」

「は、はひっ!」


 店員まで逃げるようにして立ち去ると、


「お兄さん。先ずはここから出ましょう」


 女性に連れられ、店の外へ。


「その辺の目立たない路地で少しだけ待っていてね。さっきの兵士たちの記憶を消してくるから」

「えっ!? お、おいっ!」


 あっという間に謎の女性が姿を消したのだが……どうして俺の事を知っていたのか。

 とりあえず、既に俺とエリスがこの街でマークされているようなので、言われた通りに路地へ入ると、


「お兄さん、お待たせ」


 先程の女性がすぐに戻ってきた。

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