第390話 謎の女性の正体

「とりあえず、兵士たちには直近の短い記憶を失う薬を飲ませて来たから一安心よ」

「記憶を失う薬?」


 よく分からないが、謎の女性が怖い事を言う。


「えぇ、そうよ。お兄さんは国土を脅かす者として、シーナ国の上の方から睨まれているからねー。十分程度の記憶を失う薬を飲んでもらったわ」

「それは、ありがとう……と言うべきなのだろうが、君は誰なんだ?」


 俺が魔族領に居る事を知っているかのような話ぶり……いや、これまでの事から、実際に知られているのだろう。

 だが長い髪で、胸が大きい妖艶なこの美人に心当たりが無い。


「……あ、そういう事? お兄さん。私が誰か分かって無かったの? ふふっ、じゃあ教えてあげるからついて来て」


 ん? やっぱり俺が知っている者なのか?

 ニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべる謎の女性に案内され、高そうなレストランへ。

 エリスと共に警戒しながらも、女性は何故かやたらと俺たちの事を知っている。


「あらあら、エリーちゃんもこの頃の年齢だと胸が小さいのねー」

「違うもん! これから大きくなるもん!」

「そうねー。エリーちゃんは実際に大きくなるものねー。同じ事を言っていたツバキちゃんは、小さいままだったけど」


 エリーやツバキの事も知っているようだし、何よりエリスの事をエリーの人形だとわかっているのか。

 ……って、誰なんだ?


「お兄さん。お腹もいっぱいになったし、次はこっちよー」

「待った。今の食事代を払おう」

「あ、大丈夫よ。お兄さんには身体で払ってもらうから」

「どういう意味……んっ!」


 店を出たところで、いきなり唇を重ねられ……ようやく誰か分かった。

 そういえば、変装が得意だったな。


「この舌使いは、カスミだな? どうしてここに?」

「凄っ! 流石お兄さんねー。まさかキスでバレるとは思わなかったわー。カスミちゃんとしては、中に出してもらって、慌てるお兄さんが見たかったのになー」


 何をだよ。

 いや、言わなくて良いけどさっ!


「で、どうしてカレラドの街に?」

「それは、カスミちゃんの方が聞きたいわよー。幼い女の子を連れた若い男が、親子だとか妹だとか言って、連れ回しているって聞いて、念の為見に来たら、本当にお兄さんだったしー」

「いや、今晩の宿を探していたんだよ」

「お兄さん。この国……に限った話ではないけど、人身売買はよくある話なの。だからこそ、街の兵士たちは敏感になるし、気を付けてねー」


 まぁそうだな。

 今回はカスミに助けてもらったが、十二分に面倒な事になりそうだったからな。


「で、どうしてお兄さんがこの街に居るのー? しかも、ウラヤンカダの村にエリーちゃんの人形は居なかったわよね?」

「あぁ。エリスはウラヤンカダの村からではなく、エリラドの街からついて来てもらたからな」

「エリラド……なるほど。そっちから来たのね。エリラドからだと結構遠いはずだけど……馬車かしら?」

「その通りだ……って、何でもお見通しだな」

「ふふふ。カスミちゃんよー? 情報収集から斥候に潜入、戦闘から房中術までお手の物ものよー」


 いや、最後のはどうなんだ?

 まぁ確かに凄いというか、激しいのは確かだが。


「しかし、カスミは茶屋の男を追って行ったのでは?」

「そうよー。だから、この街に居るんだけど……お兄さん。気付いていないかもしれないけど、ここカレラドはウラヤンカダの村に近……くはないけど、そんなに離れていないわよ?」

「つまり、あの男を追ってこの街へ来たという事なのか?」

「えぇ。ちなみに、あの男自身は本当にただのお茶屋さんね。何も知らずに、これまで毒の葉を運んでいたみたい。で、あの男から何人も人を介して、この街の闇ギルドと繋がっていたわ」


 なるほど。この辺りは、流石カスミと言ったところだな。


「情報をありがとう。助かるよ」

「どういたしまして。お礼はお兄さんのアレで良いわよー」

「ははは……」


 エリスの前なので、乾いた笑いしか出なかったが、カスミの話で気になる所がある。


「ところで、さっき言った闇ギルドというのは、この街にもあるのか?」

「残念ながらね」

「場所は、わかるか?」

「もちろん。潰しちゃう?」

「あぁ、そうだな。今すぐ行こう」


 カスミがカレラドの街の闇ギルドの場所を把握していたので、早速潰しに行く事にした。

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