第842話 溜まったアレ

 メリナ商会の建物に入ると、奥から現れた男がこっちに向かってきた……のだが、突然吹き飛んでくる。

 俺は平気だが、重い鎧に身を包んだ若手騎士たちなら、巻き添えを食らうかもしれないな。


「オティーリエ。ほどほどにな」

「てめぇかっ! さっきから変な力で壁や部下を投げまくっているのは! ここから無事に帰れると思うなよっ!」

「いや、俺では無いが……俺の仲間の行為だな」


 オティーリエの行動を、俺が何かのスキルを使っていると思ったのか、大きな男がドスドスと向かってきた。

 かなりの巨漢で、俺よりも背が高いだけでなく、横幅は三倍くらいあるのではないだろうか。

 そんな男が額に血管を浮かび上がらせ、走りながら、巨大な棍棒を振り上げる。


「地面にめり込ませて……」

「おい、大丈夫か? ≪ミドル・ヒール≫」


 巨漢の男が勝手にこけて、頭から床にめり込んだのだが……一応、生きているようだ。


「貴様……俺様を本気で怒らせたなぁぁぁっ!」

「いや、俺は回復してやっただけなんだが」

「うるさ……ふごぉっ!」


 今度は巨漢の男が黒い何かに勢いよく足を払われ、再び地面に顔からダイブする。

 ……ほんの一瞬しか見えなかったが、今のは黒いドラゴンの尻尾だった。

 どうやらオティーリエは、身体の一部だけをドラゴンの姿に出来るみたいだな。


「一体何を……だが、オーク並みと言われる俺の体力が、これくらいで尽きると思うなっ! ……げふぅっ!」


 今のはドラゴンの翼だろうか。

 男が吹き飛ばされたが、プルプル震えながらも立ちあがろうとする。

 ブラックドラゴンであるオティーリエの攻撃を受け続けても、なお起き上がってこられるのは本当に凄いのかもしれないな。

 ……最初に、顔が床にめり込んでいるからと、治癒魔法を使ったが、それも不要だったかもしれない。


「ま、まだまだぁっ!」

「いや、もういいだろ。少し……休め」


 ちょっと強めの回し蹴りを放ち、巨漢の男を、オティーリエが投げ捨てている人の山に向けて吹き飛ばしておいた。

 とはいえ、重量がかなりあるので、狙い通りフョークラたちの手前で止まっているが。


「さて、次は……」

「いや、今の奴が最後だよ。人間は手加減が難しいからね。手間取ってしまったよ」


 姿は見えないが、声は聞こえているので、オティーリエが側にいるのだろう。

 さて、ここからは俺の仕事だな。

 という訳で、早速怪しい壁を破壊していく。


「アレックス? 何をしているんだい? ストレス発散なら、私が相手してあげる……というか、むしろして欲しいな」

「いや、囚われたドワーフがいないか探しているんだ」

「なるほど。それなら、こっちだと思うよ。地下に続く階段があったから」


 オティーリエに教えてもらい、共に……多分オティーリエも一緒に居ると思うが、地下へ。

 階段の底にはオティーリエの予想通り、牢屋となっていた。

 だが、手前から順に覗いていくものの、誰も……いや、一人居た!


「大丈夫か!? ≪ミドル・ヒール≫」


 倒れているドワーフの女性に駆け寄ると、すぐに治癒魔法を使う。

 そのおかげなのか、それとも寝ていただけなのか、俺に気が付いたようで、顔を上げた。


「貴方は……」

「大丈夫か? 俺は……」


 昨日助けたドワーフたちよりも、更に幼く見える女の子に声を掛けると、


「お願いっ! やらせてっ!」

「えっ!?」

「もう、ずっと牢に居て、凄く溜まっているの! 大きなの……大きなのが欲しいっ!」


 そう言って、ドワーフの女性が立ち上がる。


「ふふっ、この子は中々の嗅覚を持っているみたいね。見ただけでアレックスのが大きいって分かったみたい。アレックス、私も混ぜてね」

「あっ! アレっ! アレがいいのっ!」

「え? ちょっと、何処に行くの? 大きなアレなら、ここにあるわよ?」


 ドワーフの女性が、牢が開いている事に気付いたようで、外へ向かって駆け出し……立てかけてあった大きなツルハシを掴む。

 そのまま、思いっきり振りかぶり、壁を掘り始め……


「あー! 久しぶりの壁っ! 溜まったストレスの発散には、やっぱり穴掘りよねっ!」


 嬉しそうに穴を開けていく。


「……えっ!? アレックスの大きなので掘ってもらいたいんじゃなかったの!?」

「あー、そういえばニナが初めて来た時も、ストレス発散で穴を掘っていたって言っていたな」

「……アレックス。今から子作りは……」

「いや、あの子を保護しないといけないし、フョークラたちも待っているから、そんな事はしないぞ」

「そんなぁぁぁっ! その気になったのにぃぃぃっ!」


 オティーリエがよくわからない叫び声を上げているが、ドワーフの少女が満足したようなので、フョークラたちの所へ戻る事にした。

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