第841話 暴れるオティーリエ

 騎士たちに頼まれ、少し北西に移動したところにあるマージャという街へやって来た。

 前の街ではブレアとフョークラと共に行ったのだが、


「ふっふっふ。ここは私に任せてもらおうじゃないか」

「……オティーリエさんが行くなら私も行かないとマズいですよねー」


 今回はオティーリエとフョークラの三人で行く事に。


「クケッ! アレックス、私も行くぞ?」

「いや、既に過剰戦力というか、充分すぎるし、サクッと行ってくるよ」


 というか、フョークラとミオ以外たと、オティーリエの巻き添えになりそうで怖いんだよな。

 勿論、防御スキルで守るとはいえ、吹き飛ばされる恐怖までは庇えないからな。

 ちなみに、ドワーフの兵士たちの船が無事に国へ到着したようなので分身は解除し、結衣にもお礼を言っておいた。

 馬車はミオが結界を張り続けてくれているし、モニカとブレアが居れば大丈夫だろう。

 という訳で、今回は分身を出さずに馬車で待機してもらい、一緒に来た若手騎士たちと街の中へ。


「アレックス殿。あの赤い屋根の建物です」


 街の中を少し歩くと、広い大通りに立派な商館がある。

 騎士たちの言う通り屋根も赤いし、あれがこの街のメリナ商会の支部なのだろう。


「なるほど。あれか……私の怒りを受けてもらおうか」

「えっ!? オティーリエ!? ちょっと待った! 中には攫われたドワーフが居るかもしれないんだ! 建物ごと消滅させるのはダメだ!」

「むぅ。そう言われては仕方ない。少し控えめにしよう」


 姿の見えないオティーリエがそう言った直後、通りに面したメリナ商会の壁が砕け散る。

 ……って、通行人に破片が当たるっ!


「≪ディボーション≫」

「へ? な、何……?」

「危険ですので、急いで離れてください!」


 ふぅ。パラディンの防御スキルが間に合い、買い物中といった感じの女性が驚いただけで済んだが……後でオティーリエには説教だな。

 ドラゴンでも、人間の街に居る以上、周囲に気を付けてもらわないと。


「あ、あの……アレックス殿。今のはどういった攻撃なのでしょうか」

「ん? いや、俺にも分からないが、壁を思いっきり引っ張ったんじゃないか?」

「えっ!? 御自身でも分からない攻撃!? なるほど。速過ぎて制御が出来ない系のスキルという事でしょうか」


 速過ぎて……というか、単に姿が見えないだけなんだが。

 それに、俺たちに見えていないだけで、オティーリエは当然わかっていると思うんだが。

 若い騎士たちと話している内に、壊れた壁の奥から、ゴロツキっぽい男が吹き飛ばされてきた。

 流石に周囲に誰も居ないのと、道が広いので通りの反対側にある店までは届かなかったらしい。

 まぁオティーリエが本気で男を放り投げれば、この街を軽く飛び越すだろうから、ちゃんと手加減しているのだろうが。


「……まだ息はあるようだな。≪ミドル・ヒール≫」

「なっ……一体何が!? ……ごふぁっ!」


 治癒魔法を使って治したところへ、次のゴロツキが飛んできた。

 これは……キリがないから、先にメリナ商会を潰すか。


「フョークラ。ここは任せた」

「わかりましたー。丁度、新薬の実験がしたかったので、どんどん外へ放り投げて大丈夫ですよー」

「……いや、俺がやらなくても、勝手に来ると思うぞ。……ほら」


 三人目……というか、面倒臭くなったのか、五人くらい纏めて一気に飛んできた。

 フョークラは大丈夫だと思うが、一応パラディンの防御スキルを掛けておき、騎士たちには少し離れているように言っておく。


「ちょっと中へ行ってくる。フョークラは戦闘ジョブではないので、万が一の場合は守ってあげてくれ」

「あの、こちらのダークエルフさんですが、謎の白い変なものを混ぜたりしてますけど……」

「大丈夫大丈夫。この白いのは、とっても良く効く薬だから。私も……というか皆飲んでて、大好物だから。貴女も味見してみる? きっとハマるわよー?」


 フョークラが何を作っているのかは知らないが、毒ではなく薬と言っているので大丈夫だろう。

 ……たぶん。

 とりあえず、敵はオティーリエに任せて、俺はドワーフの女性が囚われていないか探そうか。

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