第151話 戦乙女部隊

「おい! そこのクソ人間の男! 尻の穴から槍を突っ込まれて、脳天まで貫かれたくなけれりゃ、今すぐ私のユーディットちゃんを返しやがれっ! 生意気に結界なんて張りやがって……私が本気を出したら、こんな結界ごとき……」

「ま、ママ……?」

「大丈夫よ、ユーディットちゃん! こんな結界くらい今すぐ破壊して、助けてあげるからね! ……おぅ、そこの! 聞いとったんやろ!? さっさと結界を解きさらせっ! スライムのプールで溺死させたろかいっ!」

「そうじゃなくて、アレックスは悪い人間から私を助けてくれた、恩人なんだけど」

「…………申し訳ありませんでしたーっ!」


 ユーディットの母親が一旦後ろに下がると、開けた大穴から外へ出て、五体投地で謝りだした。

 その直後、今度は別の天使族たちがやって来て、


「ヨハンナ様っ!? ど、どうされたのですかっ!? くっ……こいつっ! ユーディット様をかどわかしただけなく、ヨハンナ様に幻術をかけたのかっ!?」

「あのヨハンナ様を謝らせるなんて……一体、どれ程の幻術使いなのっ!? 皆、相手を舐めちゃダメよっ! こっちも防御魔法を張って……」

「とりあえず、あの壁が邪魔で、中の様子が見づらい。私が突撃して壁を壊……」


 突然起き上がったユーディットの母親――ヨハンナさんに殴られ、無理矢理座らさていく。


「いいから、全員土下座っ! 座れっ! 頭を下げろっ! 血が出るまで額を地面に擦り付けろっ! ……重ね重ね、申し訳ありませんっ!」


 ……一体、俺は何を見せられているのか。

 その後も、数人天使族が来たかと思えば、ヨハンナさんに座らされ、頭を下げさせられていく。

 とりあえず、先程まで感じていた殺気が消えているので、先ずは俺とユーディットがヨハンナさんの元へ移動する。


「あの、誤解が解けたようなので、もう良いですよ」

「……えー、この度はこちらの勘違いにより、ご迷惑をお掛けしてしまい、すみませんでした。……おい、ここから、そっちのお前ら。とりあえず、帰れ! ……うっさい! 帰り方なんて自分で考えろ! ……こほん。改めまして、ユーディットの母、ヨハンナと申します」


 俺だけでなく、天使族も困惑した様子で、半分くらいが無理矢理この場を離れさせられ……って、ヨハンナさんは本当に態度の変化が激しいなっ!

 しかし、ヨハンナさんが帰らせた天使族が皆男性に見えて、残った天使族が皆女性に見えるのだが……き、気にし過ぎだよな? 何も無いよな?


「えーっと、俺はアレックスだ。パラディンで、とあるスキルによりユーディットを助けたんだが……俺たち人間がユーディットを奴隷にしていたようで、そこは本当にすまない」

「いえ、こちらこそ、アレックス様がユーディットを助けてくださったと気付けず、申し訳ありませんでした。一先ず、壊した家の弁償と、ユーディットを救ってくださったお礼として、私の部下からお好きな女性を選んでいただければと」


 って、おい! どうしてそうなるんだっ!

 いや、家を壊したのは確かにダメだ。既にノーラが怒っているし。

 けど、その対価がどうして天使族の女性なんだよっ!


「――っ!? よ、ヨハンナ様っ!? わ、私たちはユーディット様を救出する為に来た訳でして……」

「そ、それに人間族って、天使族の男性と違って、繁殖能力がとてつもないと聞きますよっ!? 一度、人間族の男を知ると、もう天使族の男では物足りなくなるって……わ、私たち戦乙女部隊は全員未経験ですし、初めてくらいは普通が……」


 待った! ユーディットの前で何て話をしているんだよっ!


「そんなもの必要ない! 旦那様には妾が居るのだ」

「私も反対です! やめてくださいっ!」

「そうよっ! 謝る気があるなら、そういう事じゃなくて、家を修理しなさいよっ!」


 ヨハンナさんの声が大きいからか、いつの間にかメイリンやリディア、エリー……というか、皆家から出てきていた。

 その直後、


「お待たせいたしました。緊急事態として、先ずは機動力のある我らが馳せ参じました。他の者もじきに参ります」


 いつの間にかサクラとユーディットの魔法人形たちが傍に来る。

 そして、


「え……ちょ、待って! この可愛らしさは……六百年程前のユーディットちゃんそっくり! ど、どういう事なのっ!?」


 ユーディットの人形ユーリを見たヨハンナさんが、大きな声で叫びだしてしまった。

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