第152話 天使族の習わし
「な、なんて事なの。ユーディットちゃんが拐われ、行方不明になって早百年。五十年毎に行なっていた、定期非常時訓練のおかげで、こうして再会出来たと思ったら、既に子供が居たなんて……じゃあ、私はもうお婆ちゃんなのっ!? まだ三千歳にもなっていないのにっ!」
「パパー。この人たち、ママやユーリといっしょー! はねがあるよー!」
ユーディットの人形ユーリがふよふよと飛んできて、俺の首に抱きつくと、ヨハンナさんが叫びだし、天使族の女性たちがヒソヒソと喋りだす。
「こ、これはまさか……悪人から救ってくれた王子様と、そのまま結ばれた王道恋愛パターン。憧れのシチュエーションの一つですね」
「なるほど。流石はヨハンナ様の娘。あの年齢で既に出産……しかも相手は人間族。もしかして、これは私たちにもチャンスでは? 天使族と人間族で子供が生まれるという証拠が目の前に居る訳だし。凄い体験も出来て、子供も出来て……最高じゃない?」
「でも相手は人間族……そらく、一度そういう関係になった以上、ユーディット様はもう普通の――同族の男では満足出来ない身体になってしまわれたのね。……というか、既に子供が出来るくらいにしているんだ。わ、私たちよりも若いのにっ!」
何故だろうか。
ユーリが来た途端に、天使族の女性の俺を見る目が変わった気がするんだが。
先程は謝罪する雰囲気だったのに、今は狩人が獲物を見る目になっている気がする。
一先ず、ヨハンナさんが頭を抱えて転げ回っているので、どうしたものかと困惑しつつ、ユーディットに目を向けると、
「ママって、面白いでしょー? いつもこんな感じなのー」
全く気にしていなかった。
そうか。ヨハンナさんはこれが普通なのか。
よく見れば、天使族の女性たちも、目の前で転がるヨハンナさんを完全に無視しているしな。
ユーディットの言う通り、よくある事なのだろう。
とはいえ、止めるべきか? と考えて居ると、サクラの人形たちが話し掛けてきた。
「あの、父上。非常事態と言うのは……」
「すまない。見ての通り、天使族が大量に来たからだったんだが……もう大丈夫だろう。悪いが、元の作業に戻ってもらっても構わないか?」
「畏まりました。何事もなかったのは、良い事かと。それでは、他の者たちにも伝え、普段の作業に戻ります」
サクラの人形たちが東へ向かって駆けて行ったので、こちらへ向かってくれていたであろう他の人形たちも、戻ってくれるだろう。
あとは家を修理する話が纏まれば一件落着だな。
……もちろん、修理代金を女性で支払うというのは論外だが、これさえ決まれば諸々を水に流して、ヨハンナさんをユーディットの母親としてもてなそう。
そう思った所で、再び天使族が小声で喋りだす。
「ねぇ、今の見た? 父上って言ってたわよ」
「人間族も天使族と同じ一夫多妻制なんでしょ。それより、あの子供の数の方が驚きよ。人間族の男って、みんな種馬みたいに子供を作るのかしら?」
「いいなー。凄いんだろうなー。結婚して戦乙女部隊を抜けた先輩から聞いたんだけど、いくらラブラブでも、天使族の男って、数年に一回しか出来ないらしいよー。肉体的な繋がりよりも、精神的な繋がりを重視するんだってー……何それって感じ」
何を話しているかは分からないが、何かを察したのか、エリーやリディアが突然俺に抱きついて来た。
とりあえず話が進まないので、こちらから話を振ってみる。
「ヨハンナさん。天使族の女性で……というのは無しで、何か別の物を対価にしてもらいたいんだが」
「分かりました。では、聖水十年分でいかがでしょうか」
「いや、聖水は間に合っているから、いいよ。というか、十年分って何だ?」
「この中からお気に入りの者を選んでいただき、十年間アレックスさんのお側で毎日聖水を作ります」
「いや、要らないってば」
聖水はユーディットがくれるし、モニカ専用のトイレ……こほん。とりあえず大量にあるからな。
「分かりました。では、家を壊してしまった代償については、一度我らの住む地へ取りに帰り、必ず何かご用意致します」
「分かった。とりあえず、この家を建てたノーラに謝罪だけお願い出来るだろうか」
「……ノーラさん。勘違いで家を壊してしまい、申し訳ありませんでした」
ノーラの事を話すと、ヨハンナさんが素直に謝り、
「うん、わかったー。起きた事は仕方ないもんね。あとでボクが直しておくねー」
ノーラも許してくれた。
一先ず、家を壊した件についてはこれで終わりという事にして、次はユーディットの母親としてもてなすという話をしたところ、
「では、謝罪を受け入れていただけたという事で、ここからはユーディットの母親としてお話しさせていただきますね」
「えぇ、そのようにお願いします」
「こほん……では、アレックスさん。天使様の習わしとして、私の部下と戦っていただきます」
「……はい?」
全く予想していない話になってしまった。
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