第150話 新たな珍客 

 翌朝。

 昨日と同じく、ソフィが一晩中していたので、フィーネが大変な事になっていた。

 先ずはフィーネと風呂に行き、それから皆を起こと、モニカがキョロキョロと周囲を見渡し、真っ先に俺の所へやって来る。

 昨日、皆が風呂を終えた後、モニカの姿がない事に気付き、地面で倒れていたのを助けたお礼かと思いきや、


「ご、ご主人様。手を出していただけませんか? ……ですよね。ご主人様の手は、大きくて硬くて、男らしい大きな手ですよね」


 モニカがわしわしと俺の手を握ったかと思うと、次はミオの所へ。


「うーん。柔らかさはともかく、ミオ殿は手が小さすぎるから違うか」

「何の話なのじゃ?」


 それから、ソフィ、ニナ、ノーラ、ユーディットと、モニカが小柄な者の手を握っていく。


「んー、大きさ的にはユーディット殿なのだが、あんなに凄い技を身につけているとは思えないし……」

「モニカ。何をしているんだ?」

「あ……すみません。実は昨日、ご主人様ではない、誰かの手によって果てさせられてしまいまして……」


 昨日のモニカは、暗闇の中で全裸で倒れていたし、治癒魔法を掛けても目覚めないし、何があったのかと心配していたんだが……いや、心配した俺の気持ちを返して欲しいんだけど。


「しかし、ご主人様は凄いですね」

「何だ? 唐突に」

「いえ、果てた後にそのまま続行する事が、あんなにも凄まじい事なのかと、身を持って知りまして。あ、女性としては続行しても良いのですが、男性の身で続行は大変なのだなと」


 うん。いつもの如く、モニカが何を言っているのかが分からない。


「ご主人様。私は男性としてはご主人様以外の誰かに果てさせられてしまいましたが、女性としてはご主人様以外とは……あ、あれ? そういえば、私はどうやってここへ戻って来たのだ? 確か、暗闇から柔らかい手で激しくされて……」

「……モニカが何故倒れていたのかは知らないが、全裸で祭会場に倒れていた。近くにモニカの服が落ちていたから、とりあえず最低限だけ着せて、俺がここまで運んで来たんだよ」

「そ、そうだったのですね! ありがとうございます、ご主人様。あぁっ! こんなに優しいご主人様にお仕えさせていただいているのに、見ず知らずの謎の手に気絶させられるなんてっ! 一体、あのゴッドハンドは誰なのかっ! 女性には違いなさそうなので、是非もう一度……こほん。もとい、ご主人様へ一緒にご奉仕させていただかなければっ!」


 とりあえず、いつも通りのモニカっぽいので問題ないと判断し、朝食を済ませると、それぞれの作業に取り掛かろうとして、


「――っ! マスターっ! 何やら、巨大な魔力が幾つもやってきます!」


 突然ソフィが叫びだす。

 それに少し遅れて、リディアとサクラ、ミオが反応した。


「アレックスさん! 西ですっ! 西の方に何かが突然現れましたっ!」

「メイリン様、緊急事態です! 人形たちに非常招集をかけてくださいっ!」

「≪隔離≫……さて、何者なのじゃ?」


 ミオが結界を張って警戒し始めたので、俺もパラディンの上位防御スキルで皆を守ると、


「お兄さん! た、大変だよっ! 見てっ! あれ……窓の外っ!」


 ニナの声で窓へ駆け寄る。

 そこから見えたのは、大きな白い鳥たち……いや、槍を持った人間か。


「白い翼と金色の髪に、槍……って、あれは天使族じゃないのか?」

「え? あ、本当だー! しかも、一番前に居るのって、もしかしたら私のママかも! ママーっ! マーマーっ!」


 いや、ユーディット。親を見つけて嬉しいのは分かるが、家の中から手を振って呼び掛けても聞こえないだろ。

 それに、まだ結構距離があるし。

 一先ず、ユーディットの家族なら警戒しなくても良いだろう。

 そう思った直後、ユーディットの母親と思われる、先頭を飛ぶ天使族が急降下してきて……って、ちょっと待った! 何か、槍を構えているんだが。

 ……あれ? よく考えたら、ユーディットって人間に捕まって奴隷にされていたんだよな?

 そんなユーディットが、家の中から手を振っているって、見方によっては助けを求めているように思われないか?


「ユーディット。母親を止めてくれ!」

「え? どうしてー?」

「あれ……たぶん、この家に攻撃しようとしているぞっ!」

「そんな訳ないよー。だってママは優しくて、私をいっぱい甘やかしてくれるよー?」

「だからこそ、頭に血が昇って……おい、止まれーっ!」


 ユーディットの母親がノーラの作った家の壁に大穴を開け、ミオの結界スキルに阻まれて動きを止める。


「てめぇっ! このクソ人間どもがっ! よくも私の可愛いユーディットちゃんをっ! 一族郎党ぶっ殺して、スライムの餌にしてやるからなっ!」


 ……物凄く口の悪い天使族が家に飛び込んできた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る