第746話 職人気質なドワーフ

 門の中へ進むと、大きなトンネルが緩やかに下っていく。

 ここなら、元の俺の姿で立つ事は出来なさそうだが、モニカとザシャが立つ事は出来そうだ。

 ドワーフの国のメインストリートと言った感じで、高さだけでなく幅も広がっており、光苔だけでなく、光る石みたいなものが一定間隔で天井に付いていて、これまで歩いて来たトンネルよりもかなり明るい。

 そんな大きなトンネルに一定間隔で横穴があり、真っすぐ伸びているのだが、ニナのように小柄な女性が洞窟を行き来していた。


「わぁー! お兄さん、見て見てー! ドワーフが沢山居るよー!」

「あぁ、そうだな。ニナの知っている人が居れば良いのだが」

「そうだねー。ちょっと聞いてみるねー! ……すみませーん!」


 そう言って、ニナが近くに居た女性に話し掛け、両親の事を尋ねるが……残念ながら知らないと言われてしまう。


「まだまだ! 他の人にも聞いてくるー!」


 ニナがまた別の女性に話し掛け、また次の女性に……って、女性しかいないんだが。


「ニナ。ここには女性しかいないのだが、ドワーフの国はこういうものなのか?」

「うん、そうだよー。ニナのパパもだけど、ドワーフの男の人はみんな職人だからねー。気に入った鉱石が見つかるまで延々と掘り続けたり、加工や細工がひと段落するまでは、作業場に篭り続けるんだー」

「そ、そうか」

「うん。だから、女性は逆に……少なくともニナのママは凄く自由だよー! 掘りたい気分の時に掘って、作りたい気分の時に何か作ってるの」


 なるほど。とりあえず、男性が居ない訳ではなく、この横穴の奥とかに篭っているのかもしれないな。


「わかった。じゃあ、俺も聞き込みを手伝うよ」

「私も手伝うわ」

「お兄さんも、ガブリエラさんも、ありがとー!」


 という訳で、俺とニナとガブリエラを筆頭とした三組に分かれて聞き込みを始めたのだが、子供の姿で良かったかもしれない。

 グレイスとモニカが俺と一緒に行動しているのだが、ドワーフは人間を警戒しているのだろう。話し掛けた女性の誰もが、この中で一番背の高いモニカを凝視する。


「すみません。デュルフェという家のドワーフを知らないだろうか」

「デュルフェ家……聞いた事がないわね」

「そうですか。ありがとうございました」

「……どうしてあんなに胸を露出するの? 下品だし、訳がわからないわ」


 去り際に女性が何か言っていた気もするが、次の女性に話し掛ける。

 何度かそんな事を繰り返すと、


「デュルフェ? 直接の知り合いには居ないけど、鉄の加工を得意としている地域に多い名前かも」

「そうなんですか!?」

「えぇ。うちのお爺ちゃんが詳しいんだけど……」

「是非お話を聞かせていただけないでしょうか!」

「それは構わないんだけど、今は掘りに行っているから、いつ戻るか分からないのよね」


 先程のニナの話だと、職人気質のドワーフの男性は、鉱物を掘り始めたら中々出て来ないという話だった。

 だが、せっかく見つけた情報だ。

 これを逃す手はない。


「では、そのお爺さんのいる場所を教えていただけないでしょうか」

「それはやめた方が良いわね。人間族の……それも子供が入るような場所ではないわ」

「ですが、こちらにも事情があるんです」


 ニナを家に帰してあげたくて、ここまで来たという説明をすると、そういう事なら……と、お爺さんの居場所を教えてくれた。

 早速グレイスにニナを呼んで来てもらい、お爺さんのところへ行こうとしたのだが、女性から待ったが掛かる。


「ここは、荷物を運んだりするから天井が高いけど、採掘場所は狭くて低いの。それに大勢で行くとお爺ちゃんが怒ると思うの」

「じゃあ俺とニナで行こう。グレイスたちは何処かで待っていて欲しい」

「それなら、私が良く行くカフェに行こうか」


 ガブリエラがカフェと言って少し驚いたが、大勢のドワーフが暮らしているのだから、そういった店もあるのだろう。

 ガブリエラがグレイスたちを案内するのを見送り、


「お兄さん、行こーっ!」


 ニナと一緒に小さなトンネルの中へ入った。

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